特定技能停止ですかいらーくの定着策 外食人材争奪戦の最大焦点
はじめに
外食業の外国人材採用が、量を増やす局面から、国内にいる人材をどう定着させるかを競う局面に入りました。出入国在留管理庁は2026年3月、外食業分野の特定技能1号在留者数が同年2月末時点で約4万6000人となり、5月ごろに受入れ上限の5万人を超える見込みだと公表しました。
これを受け、2026年4月13日以降に受理された外食業分野の在留資格認定証明書交付申請は不交付となり、在留資格変更許可申請も原則として不許可となります。外食企業にとって重要なのは、この措置を単なる採用停止と捉えないことです。すでに日本国内で働く人材の転職、更新、一部の移行は続くため、採用競争の主戦場は「海外から新たに呼ぶ」から「選ばれて残ってもらう」へ移ります。
すかいらーくグループは、外国人従業員の受け入れ、動画マニュアル、相談窓口、集合研修を公開情報で示してきた企業です。本稿では同社の取り組みを手がかりに、外食業界の人材戦略がどこで変わるのかを整理します。
受入れ停止が変える外食採用の前提
上限到達と停止対象
今回の措置の起点は、制度上の受入れ見込数です。外食業分野の特定技能1号は、人手不足に対応するための在留資格ですが、分野ごとに受入れの見込数が定められています。入管庁の公表では、外食業分野の在留者数が2026年2月末に約4万6000人へ達し、5月ごろに5万人を超える見込みとなりました。
このため、2026年4月13日以降に受理された外食業分野の特定技能1号の在留資格認定証明書交付申請は不交付となります。海外在住者を新規に呼び寄せる採用ルートは、少なくとも当面は極めて難しくなったということです。
国内で別の在留資格から特定技能1号へ変更する申請も、同日以降は原則として不許可です。ただし、外食業分野で特定技能1号として在留している人が転職する場合の申請は通常どおり審査されます。技能実習の一部修了者や、すでに移行準備の特定活動を持つ人にも例外的な扱いがあります。
つまり、制度が完全に止まったわけではありません。止まったのは新規流入の太い入口であり、すでに外食業分野で働く人材の移動や更新は残っています。この違いを理解しない企業は、採用計画を過度に悲観するか、逆に準備不足のまま国内人材争奪戦に巻き込まれる可能性があります。
試験停止が示す供給制約
供給制約は在留手続きだけにとどまりません。外食業の特定技能1号技能測定試験についても、農林水産省の指示を受けた試験実施団体が、国内外ともに予約手続きを停止しました。再開時期は示されていません。一方で、外食業の特定技能2号試験や飲食料品製造業の試験は予定どおり扱われるとされています。
この点は、採用担当者にとって大きな意味を持ちます。試験が止まると、将来の候補者プールも細ります。たとえ在留申請の運用が後に緩和されても、試験合格者の形成には時間がかかります。外食企業は、数カ月単位の採用空白だけでなく、候補者育成の遅れまで織り込む必要があります。
農林水産省は、食品産業特定技能協議会への加入申請自体は停止後も受け付ける一方、審査に時間がかかり、加入証明書が発行されても受入れができない場合があると注意を促しています。制度上の手続きを進めることと、実際に人材を受け入れられることは別問題になりました。
外食業界は、もともと人員の波が大きい業界です。ランチ、ディナー、休日、観光地、繁華街、住宅地で必要な人員が変わります。これまでは留学生、パート・アルバイト、特定技能、正社員、短時間勤務者を組み合わせて店舗を回してきました。新規の特定技能ルートが細ると、この組み合わせの再設計が必要です。
すかいらーくの短期影響と人材定着策
既存人材の厚み
すかいらーくグループの短期影響が限定的とみられる理由は、外国人材を単独の採用ルートとしてではなく、店舗運営と教育の仕組みに組み込んできた点にあります。同社の公開情報によると、2025年度の外国人雇用人数は4636人、外国人雇用率は3.7%です。2020年度の外国人雇用人数2213人から比べると、5年で倍以上に増えています。
店舗では、特定技能1号で働くアルバイトが約270人います。加えて、多くの留学生など外国人従業員が勤務しています。食品・物流工場では、ベトナムからの技能実習生が約200人働いているとされています。セントラルキッチンでも、2023年8月末時点で技能実習生171人、特定技能1号93人が働いていました。
重要なのは、特定技能1号だけに依存していないことです。留学生、技能実習、特定技能、正社員登用、国内アルバイト採用を組み合わせ、さらに配膳ロボットやセルフレジなどのDXも進めています。新規の特定技能受け入れが止まっても、店舗全体の人員構成が直ちに崩れる構造ではありません。
ただし、中期的な採用余地は狭まります。2025年度時点で外国人従業員が4636人いる企業でも、店舗網が大きければ人員の入れ替わりは避けられません。外食業では学生の卒業、在留資格の変更、家庭事情、転居、賃金条件の変化で離職が起きます。したがって、短期的な稼働への影響が小さくても、定着策を弱める余裕はありません。
多言語教育と相談窓口の価値
すかいらーくが公開している外国人雇用施策で目立つのは、受け入れ後の不安を減らす仕組みです。同社は、タブレット端末で閲覧できる動画の基本業務説明ツールを整備し、英語、中国語、韓国語、ベトナム語の音声に対応しています。視覚的に分かりやすいマニュアルで、受け入れを円滑にする狙いです。
現場取材でも、多言語対応の動画マニュアルが調理手順の習得を助けている様子が紹介されています。外国人スタッフは日本語で接客したい意欲を持つ一方、細かな作業や専門用語には母語で確認できる教材が有効です。これは「日本語ができる人だけを採る」という発想ではなく、働きながら学べる環境を整える発想です。
もう一つの軸が相談体制です。同社は「グローバル人財窓口」という担当者と専用電話回線を設け、勤務上の相談だけでなく、日本での生活習慣や一部宗教上の困りごとにも対応すると説明しています。外国人材の離職理由は、賃金だけでは説明できません。孤立、シフト希望の伝えにくさ、住まい、行政手続き、家族との距離、宗教や食事への配慮不足も、職場への信頼を左右します。
このような支援は、単なる福利厚生ではなく採用競争力です。外食業分野の新規流入が止まれば、国内にいる特定技能人材はよりよい職場を選べます。転職申請が通常どおり審査される以上、企業は「採ったら終わり」ではなく、「残る理由」を継続的に示さなければなりません。
集合研修と横のつながり
同社は2023年4月にトレーニングセンターを開設し、外国人面接官による外国人専用の集合型面接、オリエンテーション、初期トレーニングを実施しています。公開情報では、首都圏を中心に4カ月で約115人の外国人アルバイトスタッフが入社し、ネパール、中国、スリランカ、バングラデシュなど15カ国以上の参加があったとされています。
この施策の意味は、教育効率だけではありません。応募者同士の横のつながりが生まれ、安心感や定着率向上につながると同社は説明しています。外国人材にとって、同じ立場の仲間がいるかどうかは大きな要素です。仕事を覚える初期段階で孤立すると、ミスを恐れて質問できなくなり、結果として離職しやすくなります。
外食業の現場では、ピーク時間に十分な説明ができないことがあります。だからこそ、入社前後の集中的な研修と、店舗配属後の相談先を分けて設計する必要があります。店長だけに支援を背負わせると、店長の負荷も高まり、支援の品質が店舗ごとにばらつきます。本部主導の教育基盤は、多店舗企業ほど重要です。
外国人材の定着は、現場の善意だけでは持続しません。教材、相談窓口、評価制度、キャリアパス、生活支援、シフト管理を人事システムとして束ねる必要があります。すかいらーくの取り組みは、外食大手が「採用の入口」ではなく「働き続ける環境」に投資する段階へ移ったことを示しています。
外食産業全体に広がる人材ポートフォリオ再設計
需要回復と採用難の同時進行
外食産業の人材問題は、需要が弱いから起きているわけではありません。日本フードサービス協会の市場動向調査をもとにした2026年3月の集計では、全体売上高は前年比105.7%、客数は102.8%でした。春休み、花見、歓送迎会、インバウンド需要を取り込む一方、物価高で消費者の節約志向も続いています。
売上が伸びる局面では、必要な人員も増えます。しかも、外食は営業時間の幅が広く、注文、調理、配膳、清掃、発注、衛生管理など細かな業務が多い産業です。人手不足は単に欠員を埋める問題ではなく、ピーク時の提供速度、客席回転、メニュー数、営業時間、出店計画に直結します。
厚生労働省の外国人雇用状況によると、2025年10月末時点の外国人労働者数は257万1037人で、届出が義務化された2007年以降で過去最多でした。外国人を雇用する事業所数も37万1215所に達しています。国籍別ではベトナムが60万5906人で最多、中国、フィリピンが続きます。
一方、帝国データバンクの2026年1月調査では、正社員不足を感じる企業は52.3%、非正社員不足は28.8%でした。非正社員の業種別では、飲食店が58.6%で上位にあります。飲食店の不足感は3年連続で改善したとされますが、それでも6割近い企業が非正社員不足を感じている水準です。
国内人材をめぐる争奪戦
特定技能の新規流入停止で最も変わるのは、国内にいる人材の交渉力です。外食業分野ですでに特定技能1号として働く人の転職申請は通常どおり審査されます。企業側から見れば、他社で経験を積んだ人材を採用できる余地がある一方、自社の人材が他社へ移るリスクも高まります。
これまで海外採用に強みを持っていた企業は、現地送り出し機関や試験合格者との接点を生かせました。これからは、日本国内での評判、既存従業員からの紹介、職場の心理的安全性、初期研修の品質、シフトの柔軟性、住居や生活相談への対応が差になります。採用マーケティングの対象も、海外候補者から国内在留者へ移ります。
国内人材の争奪戦では、賃金は重要ですが、それだけでは十分ではありません。外食業界は原材料費、人件費、エネルギー費の上昇を受け、価格改定と販促を同時に進めています。賃金を上げ続けるだけでは収益を圧迫します。だからこそ、業務の標準化、教育の短縮、定着率向上、店舗ごとの適正配置が経営課題になります。
帝国データバンクは、2025年度の人手不足倒産が441件で過去最多となり、飲食店も21件に上ったとしています。これは大企業だけの問題ではありません。採用難が続くと、営業時間短縮、定休日増加、出店延期、サービス水準低下が起きます。小規模店ほど一人の退職が営業継続に響きやすく、人材定着は財務リスクの管理でもあります。
人材定着を支える制度設計
外食企業が取るべき対応は、採用チャネルの追加だけではありません。第一に、既存外国人従業員の在留期限、更新時期、希望する働き方、キャリア希望を棚卸しすることです。更新申請は通常どおり審査されるため、期限管理の遅れは避けなければなりません。
第二に、教育を属人化しないことです。多言語マニュアル、動画教材、やさしい日本語、写真付き手順書は、外国人材だけでなく日本人の新人にも効きます。標準化が進めば、店長やベテランの教育負荷も下がります。これは人手不足対策であると同時に、品質管理の基盤です。
第三に、キャリアの見える化です。外国人スタッフの中には、接客、調理、衛生管理、発注、トレーナー、社員登用、店長補佐など、より責任ある仕事を望む人もいます。現場取材では、外国人スタッフがマネージャー職への意欲を語る事例も紹介されています。長く働くほど仕事の幅が広がる設計は、定着率を高めます。
第四に、相談窓口を本部機能として持つことです。宗教、生活、住まい、行政手続き、ハラスメント、労務トラブルは、店舗だけで解決しにくい領域です。相談先が明確であれば、問題が離職に直結する前に発見できます。人材確保が難しくなるほど、早期離職を防ぐ仕組みの価値は上がります。
注意点・展望
今回の受入れ停止で避けたい誤解は二つあります。第一に、外食業の特定技能がすべて使えなくなったわけではないという点です。更新申請は通常どおり審査され、外食業分野で特定技能1号として在留する人の転職に伴う申請も通常どおり扱われます。実務上は、国内人材の採用管理と在留期限管理がより重要になります。
第二に、制度再開を待てば元に戻るという見方です。試験予約も停止されており、候補者プールの形成には時間がかかります。仮に受入れ見込数が将来見直されても、採用競争の構造はすぐには戻りません。人材が企業を選ぶ傾向は強まり、職場の評判は採用力そのものになります。
展望としては、外食企業の人事戦略は三つに分かれます。大手は教育基盤と本部支援で定着を高め、中堅は地域内の紹介と柔軟なシフトで選ばれる職場をつくり、小規模店は営業時間やメニューを見直して必要人員を抑える方向です。どの規模でも共通するのは、採用人数より定着率を重視する視点です。
すかいらーくのように外国人材の受け入れ体制を公開し、教育と相談を仕組みにする企業は、国内人材争奪戦で優位に立ちやすくなります。逆に、採用だけを外部任せにし、入社後の支援を現場任せにする企業は、採れても残らないリスクが高まります。
まとめ
外食業の特定技能1号受け入れ停止は、外国人材活用の終わりではありません。むしろ、国内にいる人材をどう迎え、育て、残ってもらうかを問う転換点です。入管庁の公表では、外食業分野の在留者数は約4万6000人となり、上限5万人に近づきました。試験も止まり、海外からの新規供給は当面細ります。
その中で、すかいらーくの多言語教育、相談窓口、集合研修、キャリア登用の考え方は、外食企業が学ぶべき定着策の一例です。人材戦略の次の焦点は、採用数の多さではなく、働き続ける理由をどれだけ設計できるかにあります。外食企業は、在留期限の棚卸し、教育の標準化、生活支援、評価制度を急ぎ点検する段階です。
参考資料:
- 特定技能「外食業分野」における受入れ上限の運用について
- 外食業分野における外国人材の受入れについて
- 食品産業特定技能協議会について
- 外食業の特定技能1号試験予約手続きの停止について
- 特定技能在留外国人数の公表等
- 外国人雇用状況の届出状況まとめ 令和7年10月末時点
- 人手不足に対する企業の動向調査 2026年1月
- 人手不足倒産の動向調査 2025年度
- ダイバーシティ すかいらーくホールディングス
- すかいらーくを支えるスタッフ
- すかいらーくの現場から考える、外国人採用で成功する飲食店の人材戦略
- 市場動向調査 日本フードサービス協会
- 和風FFSの売上高2桁増続く 2026年3月
- 特定技能 外食業分野 受入れ上限の運用について JITCO
- 東京商工会議所 情報提供 特定技能 外食業分野における受入れ上限の運用について
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