非上場株の相続評価見直しで問われる節税対策と事業承継の実務対応
2026年非上場株評価見直しの焦点
非上場企業のオーナーにとって、自社株の評価は相続税の負担を左右する中核論点です。上場株のような市場価格がないため、税法上の評価ルールがそのまま税額の土台になります。だからこそ、制度の細かな差や判定基準の違いが、承継コストを大きく変えてきました。
2026年4月、国税庁が非上場株の相続評価を見直す方向だと報じられ、関心が一気に高まっています。背景には、現行ルールの隙間を使って評価額を下げる実務が広がったことと、通達による個別否認だけでは対応しにくい裁判が続いたことがあります。本記事では、公開資料だけを使って現行制度の骨格、見直し論が強まる理由、そして中小企業の事業承継にどんな影響が及びうるのかを整理します。
現行ルールの骨格
類似業種比準方式と純資産価額方式の並立
国税庁のタックスアンサーによると、取引相場のない株式は、株主が同族株主かどうか、さらに会社が大会社、中会社、小会社のどれに当たるかで評価方法が変わります。大会社は原則として類似業種比準方式、小会社は原則として純資産価額方式、中会社は両者の併用です。少数株主に近い立場なら、配当還元方式が使われます。
この仕組みの厄介さは、同じ会社でも誰が取得するかで評価が変わり、さらに会社規模や資産構成によっても結果が大きく動く点にあります。類似業種比準方式は、配当、利益、簿価純資産の3要素を同業上場企業と比べる方式で、収益力のある会社ほど高くなりやすい一方、純資産価額方式は土地や有価証券などの含み益を抱える会社で評価が膨らみやすいのが特徴です。
国税庁の通達では、中会社と小会社に適用する類似業種比準価額のしんしゃく率がそれぞれ0.6、0.5とされており、会社規模の判定自体が税額に直結します。評価方式の選択が任意ではなく、会社の属性と株主の立場で機械的に決まるため、どの区分に入るかが実務上の最重要論点になってきました。
特定会社判定と評価額の跳ね方
現行制度には、一般の会社とは別に「特定の評価会社」という区分があります。国税庁は、比準要素数1の会社、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社、休業中の会社などは、原則として純資産価額方式で評価すると整理しています。つまり、資産保有色が強い会社や実態に比べて利益・配当要素が乏しい会社は、相続税評価額が上がりやすい設計です。
ここで重要なのが、株式等保有特定会社と土地保有特定会社の判定です。総資産のうち株式、出資、新株予約権付社債の比率が高い会社や、土地などの保有割合が高い会社は、相続税評価で「資産会社」とみなされやすくなります。現行ルールは、営業会社を前提にした類似業種比準方式と、資産会社に厳しい純資産価額方式を切り分ける思想でできています。
ただ、この線引きが明確なようでいて、実務では組み替え余地が残ってきました。特定会社判定の直前に資産構成を動かせば、同じ企業グループでも評価区分が変わりうるからです。通達189は、合理的な理由なく資産構成を動かして特定会社判定を免れる場合、その変動はなかったものとして扱うと定めていますが、実際にどこまで否認できるかは別問題でした。
見直し論が再燃した背景
節税スキームの定番化
見直し論が強まった最大の理由は、評価ルールの「入口」を操作する節税策が広く知られるようになったことです。典型例として挙がるのが、株式等保有特定会社の判定を外す、いわゆる「株特外し」です。株式等の比率を50%未満に見せるため、一時的に別資産を積み上げたり、資産の持ち方を変えたりする手法が問題視されてきました。
もう一つが「評価会社外し」と呼ばれる発想です。グループ内再編や株式移動で、評価対象会社そのものの位置付けを変え、結果としてより低い評価方式へ寄せる考え方です。公開裁決や実務解説でも、特定会社判定、同族判定、会社規模判定をどう跨ぐかが争点になっており、節税が単純な株価引下げ策ではなく、制度の分類ロジックそのものを使うゲームになっていたことが分かります。
この点は、税務大学校の論叢でも以前から課題として整理されてきました。同校の研究では、現行制度には「評価方式変更型」の引下げ策が生じやすいと指摘され、会社規模区分や同族判定が評価額のバランスを歪めると論じています。見直しが仮に入るなら、狙いは単なる増税ではなく、分類操作による恣意性を減らすことにあると見るのが自然です。
総則6項訴訟で露呈した通達運用の限界
もう一つの背景が、総則6項を巡る近年の訴訟です。PwC Japanが紹介する2024年4月8日公表の解説では、東京地裁が2024年1月18日、非上場株評価に総則6項を適用した国の更正処分を取り消しました。さらに2025年5月30日公表の別の解説では、東京地裁が2025年1月17日にも、特定の評価会社外し事案で総則6項の適用を認めませんでした。
総則6項は、通達どおりに評価すると著しく不適当な場合に、個別指示で時価を捉え直すための安全弁です。不動産を巡る最高裁判決では国側が勝った一方、非上場株では同じ論法が通りにくい場面が出ています。公開資料から推測すると、国税庁は「後から否認する」やり方だけでは安定的な執行が難しいと判断し、通達や制度自体のほうを事前に組み替える必要に迫られているとみられます。
改正対象になりやすい論点
会社規模区分と評価方式の再設計
税務大学校の2024年公表論文「今後の取引相場のない株式の評価のあり方」は、かなり踏み込んだ問題提起をしています。そこでは、類似業種比準方式に代えて残余利益方式を導入し、会社規模にかかわらず純資産価額方式との2分の1併用にする案や、評価方法を法定化する案が示されています。もちろん研究論文であり、直ちに政府方針ではありません。
それでも、この提案が示す方向性は重いです。現行制度の弱点が、会社規模ごとに評価方法を分けること自体にあるなら、見直しは単なる部分修正で終わらない可能性があります。大会社は類似業種比準、小会社は純資産という古い二分法を薄め、全社共通のハイブリッド型へ寄せる発想は、節税余地の大きい「区分またぎ」を封じやすいからです。
資産構成いじりへの補正強化
より現実的に先行しそうなのは、特定会社判定の補強です。2017年の通達改正では、類似業種比準方式の見直しに加え、株式保有特定会社の判定基準の見直しや会社規模判定基準の見直しが行われました。つまり、国税庁はこれまでも株価評価の計算式だけでなく、「どの箱に入れるか」の条件を改めてきた経緯があります。
2026年3月25日にも、純資産価額方式における法人税額等相当額の扱いについて改正が実施されました。これは防衛財源確保法に伴う税率変更への技術対応ですが、裏を返せば、非上場株評価は今も細かな制度修正が続く領域だということです。今後は、一時的な資産移動や組織再編をどこまで評価計算上無視できるか、あるいは一定期間平均でみるのかといった補正ルールが論点になりそうです。
事業承継への影響
負担増が出やすい企業像
見直しで評価額が上がりやすいのは、資産保有色が強い会社、グループ内再編を活用してきた会社、事業実態に対して保有株式や不動産が大きい会社です。現行制度の境界を使って評価を下げていた場合、その境界が塞がれれば税負担が増えるのは避けにくいです。記事タイトルにある「一部は増税」とは、まさにこの層を指すと考えるのが妥当です。
一方で、すべての中小企業に一律の厳格化をかけると副作用も大きくなります。中小企業白書2025は、60歳以上の経営者が過半数を占め、法人企業の約3割が親族内承継を考えていると示しています。承継準備の遅れが残るなかで自社株評価だけが急に重くなれば、納税資金のために株式分散や資産売却を迫られ、事業継続を不安定にする可能性があります。
事業承継税制との連動
そこで鍵になるのが事業承継税制です。中小企業庁の法人版事業承継税制の特例措置ページによると、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日まで、贈与・相続による取得の対象期間は2027年12月31日までです。承継株式にかかる贈与税・相続税の100%が納税猶予の対象になる枠組みは、見直し後も実務上の安全網であり続けるでしょう。
ただし、この制度は万能ではありません。都道府県認定や継続報告などの手続が必要で、対象外の会社や株主には使えません。少数株主の整理、持株会社化したグループ、資産管理会社が混じるケースでは、猶予の適用関係が複雑になりやすく、評価見直しの影響をそのまま受ける企業も残ります。
未確定の改正案と3試算の必要性
ここで注意したいのは、2026年4月時点では具体的な改正案がまだ固まっていないことです。どの方式を廃止するのか、特定会社判定だけを詰めるのか、評価方法を法定化するのかは未確定です。本記事のうち将来像に関する部分は、国税庁の研究資料、既存通達の改正履歴、裁判例からの推論だと受け止める必要があります。
実務では、改正が決まってから動くのでは遅い局面が増えます。オーナー企業は、現行評価だけでなく、純資産価額方式寄りになった場合、資産移動が否認された場合、事業承継税制を使う場合の三つ程度で試算を持つべきです。見直しの本質は、過度な節税の封じ込めと、必要な承継支援の両立にあります。制度がその二つをどう線引きするかが、2027年度税制改正の最大の見どころになります。
総則6項依存と耐久性ある承継設計
非上場株の相続評価見直しは、単なるテクニカルな税務改正ではありません。現行ルールが抱える「会社規模区分」「特定会社判定」「総則6項への依存」という三つの歪みをどう直すかという、制度の根幹にかかわる論点です。
公開資料から見えるのは、国税庁が後追い否認よりも、評価ルールそのものの明確化へ軸足を移しつつあることです。節税目的の操作に頼るほど今後の不確実性は高まります。経営者や後継者に必要なのは、株価を低く見せる工夫ではなく、承継後の経営計画と納税資金を前提にした、耐久性のある承継設計です。
参考資料:
- No.4638 取引相場のない株式の評価|国税庁
- 類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(令和7年分)|国税庁
- 類似業種比準価額計算上の業種目分類について(令和7年分)|国税庁
- 財産評価基本通達の一部改正について 通達等のあらましについて(2017年5月)|国税庁
- 財産評価基本通達の一部改正について 通達等のあらましについて(2026年3月25日)|国税庁
- 今後の取引相場のない株式の評価のあり方|税務大学校・国税庁
- 相続税法64条と財産評価基本通達6項との関係について―取引相場のない株式を中心として―|税務大学校・国税庁
- 取引相場のない株式|公表裁決事例等の紹介|国税不服審判所
- 非上場株式の相続評価に係る総則6項の裁判事例|PwC Japanグループ
- 非上場株式の相続評価に係る総則6項の裁判事例(特定の評価会社外し事案)|PwC Japanグループ
- 法人版事業承継税制|国税庁
- 法人版事業承継税制(特例措置)|中小企業庁
- 2025年版 中小企業白書 第9節 事業承継|中小企業庁
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