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年金3号男性13万人、専業主夫が映す共働き時代の扶養制度再考

by 藤田 七海
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年金3号男性増が映す家族役割の転換点

国民年金の第3号被保険者に占める男性が、2024年度末に13万人となりました。第3号全体は641万人で、その大半はなお女性ですが、男性だけをみると1990年代半ばの4万人規模から約3倍です。数字としては小さくても、家計を支える人と家庭を担う人の性別が固定されにくくなった変化を映しています。

第3号被保険者は、厚生年金に加入する会社員や公務員に扶養される20歳以上60歳未満の配偶者が入る制度です。専業主婦を前提に語られがちでしたが、実際にはパートで働く人、病気や失職を経て扶養に入る人、育児や介護を優先する人も含みます。男性の増加は「専業主夫」という言葉だけでは捉えきれない、家庭内の役割選択の広がりを示す現象です。

本稿では、制度の仕組み、女性就業の拡大、年収の壁、2025年の年金制度改正を重ねて読みます。ブランドや消費文化の視点で見れば、家族像の変化は単なる社会保障の論点にとどまりません。住まい、教育、保険、働き方サービスを選ぶ前提そのものを変える生活文化の変化でもあります。

専業主夫を支える第3号被保険者の制度設計

保険料を個別に納めない仕組み

日本年金機構は、第3号被保険者を「厚生年金に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者」と説明しています。年収は原則130万円未満で、配偶者の年収の2分の1未満であることが基本です。保険料は第2号被保険者全体で負担するため、第3号本人が国民年金保険料を個別に納める必要はありません。

ここで重要なのは、制度が「夫の保険料で妻の年金を払っている」という単純な構造ではない点です。厚生年金制度の加入者全体で基礎年金部分を支える設計であり、個別世帯の中だけで保険料負担が完結しているわけではありません。一方で、負担なしで老齢基礎年金の受給権を積めるように見えるため、共働き世帯や単身者から公平性への疑問が出やすい制度でもあります。

健康保険の扶養認定とも連動します。会社員の配偶者などで一定の収入がない人は、健康保険と厚生年金で社会保険料負担が発生しません。年収換算で約106万円や130万円を超えると、勤務先の社会保険や国民年金・国民健康保険への加入が必要になり、手取りが一時的に減る場合があります。この段差が「年収の壁」と呼ばれ、就業調整の大きな理由になってきました。

男性13万人が示す少数派の可視化

2024年度末の公的年金被保険者数を男女別にみると、第3号は総数641万人、男性13万人、女性628万人です。男性は第3号全体の約2%にすぎません。しかし、1995年度の男性4.1万人、1986年度の3.0万人と比べれば、長期的には着実に増えています。第3号総数は1995年度の1220.1万人をピークに減っているため、全体が縮小する中で男性だけが増えた構図です。

この変化は、男性が「主たる稼ぎ手」であるという規範の揺らぎを示します。配偶者である女性が正社員として働き続ける、医療・専門職・管理職として家計を支える、男性が転職や療養、育児、介護の時期に家庭側へ軸足を移す。こうした選択が、統計上の少数派として可視化され始めました。

ただし、男性第3号を一括して余裕のある専業主夫層と見るのは危ういです。パネルデータ研究では、男性第3号には失職や健康上の理由を経験した人、パートやフリーランス、求職中の人も含まれると指摘されています。家計に余力があるから家庭を選んだ人だけでなく、労働市場からの退出や不安定就労の受け皿として扶養に入る人もいます。

つまり、男性第3号の増加は二つの顔を持ちます。一つは、女性のキャリア継続と家族役割の柔軟化です。もう一つは、中高年男性の雇用リスクや健康リスクが、配偶者の社会保険に吸収されている現実です。制度を評価するには、生活文化の多様化とセーフティーネットの両面を分けて見る必要があります。

女性就業拡大で変わる家計とケア分担

共働き世帯の標準化とM字カーブの変化

第3号男性の増加を支える最大の環境変化は、女性の就業拡大です。内閣府の男女共同参画白書では、2024年の雇用者の共働き世帯が1222万世帯、男性雇用者と無業の妻から成る世帯が398万世帯と示されています。1990年代半ばに共働き世帯が専業主婦世帯を上回った流れは、もはや一時的なトレンドではなく家族の標準形の変化になっています。

女性の労働力率も大きく変わりました。JILPTが総務省「労働力調査」を基に整理した2024年平均では、女性の労働力率は55.6%で前年より0.8ポイント上昇しました。かつて出産・子育て期に大きく落ち込んだM字カーブは浅くなり、2024年の35〜39歳女性の労働力率は81.4%に達しています。

この変化は、家計の中心を一人の男性賃金に置くモデルを弱めます。住宅ローン、教育費、老後資金、民間保険の設計は、夫婦のどちらが長く厚生年金に入るかで変わります。女性が第2号被保険者として働き、男性が第3号に入る世帯では、従来と逆向きの社会保険設計が成立します。制度上は性別を問わないため、条件を満たせば「妻に扶養される夫」も第3号になれます。

家事育児の偏りが残す制度外コスト

ただし、共働き化は家事・育児の均等化を自動的にもたらしていません。総務省の社会生活基本調査では、6歳未満の子どもを持つ夫婦と子どもの世帯で、2021年の夫の家事時間は30分、育児時間は1時間5分でした。妻は家事2時間58分、育児3時間54分で、家事時間は妻が夫の約6倍、育児時間は約3.5倍です。

この偏りは、第3号制度の議論にも影を落とします。専業主夫が増えることは、男性がケアを担う選択肢の拡大として評価できます。一方で、家事や育児が依然として女性側に偏るまま、第3号だけを「働かない配偶者の優遇」として語ると、家庭内の無償労働の価値が見えにくくなります。

男性の育児休業取得率は2024年度調査で40.5%となり、初めて4割台に達しました。育児に関わる男性が増えることは、専業主夫に限らない役割変化の兆しです。しかし、育休取得と長期的なケア分担は別の課題です。短期の休業は広がっても、子育て、家事、親の介護を誰が日々担うのかという問いは残ります。

家計の実務では、この差が消費やサービス利用にも表れます。時短家電、家事代行、宅配食、保育サービス、介護支援、リスキリング講座などは、共働き世帯だけでなく、片方が就労を抑える世帯にも関わります。専業主夫世帯の増加は、男性向けに設計されてこなかった家事・育児サービス市場にも、利用者像の更新を迫ります。

年収の壁が生む働き方の天井

第3号の論点は、無業の配偶者だけではありません。厚生労働省の資料では、会社員や公務員の配偶者で扶養され保険料負担がない第3号のうち、約4割が就労しているとされています。扶養内で働くパート、短時間勤務、非正規雇用の人が多く、収入が一定額を超えると社会保険料負担が生じるため、勤務時間を抑える行動が起こります。

これは企業にとっても人材戦略上の問題です。人手不足が深まる中で、年末に勤務シフトを減らす、昇給を避ける、勤務時間を週20時間未満に抑えるといった調整は、本人のキャリア形成だけでなく店舗運営やサービス品質にも影響します。制度が家計の安心を支える一方で、働きたい人の労働供給を抑える天井にもなっているのです。

男性第3号にも同じ構図があります。妻が厚生年金に加入し、夫がパートやフリーランスで収入を調整する場合、130万円の基準は働き方の境界になります。専業主夫という言葉からは無業のイメージが先行しますが、実際には短時間就労と家庭責任を組み合わせる男性もいます。制度論は、性別ではなく「誰が、どの程度働き、どのリスクを負うのか」で捉え直す段階に入っています。

年金改革で細る扶養内モデルの持続性

2025年に成立した年金制度改正法は、第3号制度そのものを直ちに廃止するものではありません。中心は、短時間労働者が厚生年金や健康保険に入りやすくなる被用者保険の適用拡大です。賃金要件である月収8.8万円以上、年収換算約106万円の基準は公布から3年以内に撤廃され、企業規模要件も10年をかけて段階的に縮小・撤廃されます。

この方向は、第3号を一気に消すのではなく、働く配偶者を第2号へ移していく改革です。2024年度末には、厚生年金保険の短時間労働者数が111万人となり、前年度末から19万人増えました。うち女性は85万人、男性は26万人です。適用拡大が進めば、扶養内で働いていた人の一部は保険料を負担する代わりに、将来の厚生年金給付や傷病手当金などの保障を得る側へ移ります。

課題は移行期の手取り減と、企業負担への対応です。保険料負担が増える時期に賃上げや勤務時間の増加が伴わなければ、本人にとっては「働くほど損をする」という感覚が残ります。中小企業にとっては社会保険料の事業主負担が増え、人件費管理の見直しが必要です。制度改正は公平性を高める一方、家計と職場の双方に調整コストを生みます。

男性第3号の増加は、この移行の議論をより中立的にします。第3号を「主婦年金」と呼ぶだけでは、妻に扶養される夫、介護で離職した男性、健康不安を抱える配偶者を取りこぼします。見直しに必要なのは、性別を前提にした優遇論ではなく、ケア労働、低収入就労、失職リスク、老後保障をどう組み合わせるかという再設計です。

家計と企業が備える扶養制度再設計の視点

読者がまず確認すべきなのは、世帯内の「第2号」と「第3号」の位置関係です。どちらが厚生年金に入り、どちらが扶養に入り、将来の年金額や医療保障がどう変わるのかを、年収の壁だけで判断しないことが重要です。短期の手取りと長期の保障は、同じ方向に動くとは限りません。

企業側は、扶養内勤務を前提にした人員計画から、社会保険加入を前提にした処遇設計へ移る必要があります。短時間労働者に対する労働時間の拡大、賃上げ、柔軟なシフト、育児・介護との両立支援を組み合わせなければ、適用拡大は単なる負担増に見えてしまいます。

第3号男性13万人という数字は、まだ大きな集団ではありません。それでも、家族の役割は確実に多様化しています。制度の焦点は「専業主婦を守るか、なくすか」から、「誰が働き、誰がケアし、社会保険がその選択をどう支えるか」へ移っています。専業主夫の増加は、その問いを生活者の側から突きつける小さくない変化です。

参考資料:

藤田 七海

ブランド・消費文化・ライフスタイル

ブランド戦略・消費文化・ライフスタイルを幅広く取材。歴史や科学にも造詣が深く、多角的な視点で社会の「今」を切り取る。

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