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伊藤忠が主導するデサントのプレミアム戦略の全貌

by 藤田 七海
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伊藤忠傘下デサントの水沢ダウン戦略

スポーツ用品大手のデサントが、大きな転換期を迎えています。2025年1月に東京証券取引所プライム市場から上場廃止となり、伊藤忠商事の完全子会社として新たなスタートを切りました。その中心にあるのが、10万円を超える高級ダウンジャケット「水沢ダウン」に象徴されるプレミアムブランド戦略です。

中国や韓国ではすでにプレミアムブランドとして確固たる地位を築いているデサントですが、日本市場ではかつての安売り路線が足を引っ張り、ブランドイメージの再建が課題となっていました。伊藤忠商事から送り込まれた小関秀一社長のもと、デサントはどのように変貌を遂げつつあるのでしょうか。本記事では、その戦略の全貌を解説します。

伊藤忠商事によるデサント改革の経緯

敵対的TOBから完全子会社化へ

伊藤忠商事とデサントの関係は、2019年の敵対的TOB(株式公開買い付け)にまで遡ります。当時、デサントの経営陣は伊藤忠の提案に反対していましたが、TOBは成立し、伊藤忠出身の小関秀一氏が社長に就任しました。

小関社長は1979年に伊藤忠商事に入社し、長年にわたり中国ビジネスに携わってきた人物です。この中国市場での知見が、後のデサントの成長戦略に大きく活かされることになります。

2024年10月には、伊藤忠がデサントに対する追加のTOBを実施し、保有比率を約44%から86%に引き上げました。そして2025年1月24日、デサントは東証プライム市場での上場を廃止し、伊藤忠の完全子会社となりました。上場廃止により、四半期ごとの短期的な業績プレッシャーから解放され、中長期的な成長投資に集中できる体制が整ったのです。

小関社長が断ち切った「安売り体質」

小関社長就任以前のデサントは、量販店やアウトレットへの依存度が高く、安売りが常態化していました。ブランド価値は毀損され、消費者からは「安い」というイメージが定着してしまっていたのです。

小関社長はこの悪循環を断ち切るため、DTC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)戦略を推進しました。卸売りに依存するビジネスモデルから脱却し、自社で価格をコントロールできる直営店やEコマースへの転換を図ったのです。目標として掲げられたのは、デサントブランドのDTC比率80%という野心的な数字です。

水沢ダウンが切り開くプレミアム市場

世界に誇る日本発の高機能ダウン

デサントのプレミアム戦略の象徴が「水沢ダウン」です。2008年に岩手県奥州市の水沢工場で誕生した水沢ダウンは、従来のダウンジャケットが抱えていた「縫い目から水が浸入して羽毛が濡れる」という課題を解決した画期的な製品です。

熱圧着技術を用いて縫い目を最小限に抑えることで、防水性と耐水性を兼ね備えた高機能ダウンジャケットを実現しました。フラッグシップモデル「MOUNTAINEER」は税込121,000円、定番モデル「ANCHOR」は税込96,800円と、10万円前後の価格帯で展開されています。

約30億円を投じた新工場の稼働

デサントは水沢ダウンの生産拠点である水沢工場を約30億円かけて刷新し、2025年7月に新工場が操業を開始しました。新工場の特徴は、生産ラインが固定されていない柔軟な生産体制にあります。モデルや仕様に応じてラインを組み替えることができるため、挑戦的な新モデルと定番モデルを並行して生産することが可能です。

この投資は、水沢ダウンの生産能力を拡大すると同時に、品質管理の精度を一段と高める狙いがあります。国内で希少なダウンウェアの一貫生産体制を維持しながら、増加する需要に対応する体制を整えたのです。

直営店リニューアルとブランド体験の強化

かつて「DESCENTE BLANC」として展開していた直営店5店舗を、デサントのDNAやモノづくりの世界観を体感できる空間としてリニューアルオープンしました。取り扱いカテゴリーを一新し、来店客がデサントの技術力とプレミアムな世界観を直接体験できる場として再構築されています。

海外市場での成功と日本市場への逆輸入

中韓での圧倒的なブランド力

デサントが海外で大きな成功を収めているのが中国市場です。中国のスポーツ用品大手アンタ・スポーツとの合弁事業を通じ、「デサント」ブランドの直営店を250店舗以上展開しています。中国ではプレミアムスポーツブランドとして認知されており、富裕層やアスリート志向の消費者から高い支持を得ています。

韓国市場でもデサントはプレミアムブランドとして定着しており、特にゴルフウェアやスキーウェアの分野で強いブランド力を発揮しています。

グローバル展開の加速

伊藤忠の完全子会社となったことで、デサントは主力市場である日中韓に留まらず、米国や欧州を含めたグローバル展開を加速させる方針です。伊藤忠グループの持つグローバルなネットワークやリソースを活用し、世界規模でのブランド拡大を目指しています。

小関社長は「スポーツアパレルはまだまだ伸ばせる余地が大きい」と語っており、伊藤忠傘下での成長投資に自信を見せています。

日本市場再建と10万円超戦略の課題

デサントのプレミアム戦略は順調に進んでいますが、いくつかの課題も残されています。

まず、日本市場でのブランドイメージの再建には時間がかかります。長年の安売りイメージを払拭するには、継続的なブランドコミュニケーションと、消費者が実際に価値を体感できる接点の拡充が必要です。

また、プレミアム化は市場の裾野を狭めるリスクも伴います。10万円超のダウンジャケットを購入できる消費者層は限られており、ボリュームゾーンとのバランスをどう取るかが問われます。

一方で、上場廃止によって短期的な利益追求から解放されたことは、長期的なブランド構築において大きなアドバンテージとなります。伊藤忠の資本力と商社ネットワークを活かしたグローバル展開が軌道に乗れば、デサントはナイキやアディダスに次ぐプレミアムスポーツブランドとしての地位を確立する可能性を秘めています。

DTC80%と30億円投資の転換策

伊藤忠商事の完全子会社となったデサントは、安売り体質からの脱却を進め、水沢ダウンを軸としたプレミアムブランドへの転換を加速させています。約30億円の新工場投資、直営店のリニューアル、DTC比率80%の目標など、その戦略は多面的かつ本格的です。

中韓での成功モデルを日本市場にも展開しつつ、グローバルなプレミアムスポーツブランドを目指すデサントの挑戦は、日本のアパレル業界における新たなロールモデルとなるかもしれません。消費者にとっては、より高品質で魅力的な製品が手に取れる機会が増えることが期待されます。

参考資料:

藤田 七海

ブランド・消費文化・ライフスタイル

ブランド戦略・消費文化・ライフスタイルを幅広く取材。歴史や科学にも造詣が深く、多角的な視点で社会の「今」を切り取る。

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