サンリオとジャパネットに学ぶ二代目経営改革の実装力と条件とは
サンリオとジャパネットの二代目改革
創業者の存在感が極めて大きい企業ほど、次の経営者に求められる役割は難しくなります。先代の成功体験が強いほど、組織は前例を守ることに長ける一方で、環境変化への適応は遅れやすくなるからです。サンリオの辻朋邦社長とジャパネットホールディングスの髙田旭人社長は、まさにその難題に向き合ってきた経営者です。
両社に共通するのは、創業家出身でありながら、単なる「守成」の役割にとどまらなかった点です。サンリオはハローキティ依存からの脱却とグローバルIP企業への転換を進め、ジャパネットは創業者の個人技に見えがちだった販売力を、組織能力として再設計してきました。公開情報をたどると、二人の改革は精神論ではなく、組織設計と事業構造の変更にまで踏み込んでいることが見えてきます。
この記事では、両社の事業承継を比較しながら、二代目経営に必要な視点を整理します。焦点は、先代との葛藤そのものではなく、葛藤を経営の再設計にどうつなげたかです。
継ぐだけではなく、経営の前提を変えた
サンリオは「第二の創業」を組織改革から始めた
サンリオは2020年7月に辻朋邦氏が社長に就任しました。創業者の辻信太郎氏から孫へとトップが交代したかたちですが、経営の意味は単純な代替わりではありませんでした。会社は2021年3月期に営業赤字を計上し、その後の中期経営計画で「第二の創業」を掲げます。2022年3月期から2024年3月期までの旧中計では、「組織風土改革」「構造改革の完遂」「再成長の種まき」を三本柱に設定しました。
重要なのは、サンリオが不振の原因を商品力だけでなく、組織の実行力にも求めたことです。公式資料では、前回計画が未達だった背景として「組織風土を変え切れなかった」点を挙げています。つまり、問題はハローキティの人気変動だけではなく、変化を形にする企業体質の不足にあったという認識です。この自己診断は重い意味を持ちます。創業者が築いた価値観を尊重しながらも、運営の仕組みは改める必要があると、経営自ら認めたからです。
実際、現在の経営陣には外部企業で経験を積んだ人材が目立ちます。会社概要でも、オリエンタルランド、BCG、デロイト、ソニー、NAMCO USAなどの出身者が要職を担っていることが確認できます。創業家の求心力に専門人材の執行力を重ね、属人的な意思決定からチーム型経営へ移す流れが読み取れます。
ジャパネットは「カリスマの技」を組織能力に翻訳した
一方のジャパネットでは、2015年に髙田旭人氏が社長へ就任しました。注目すべきは、創業者の髙田明氏が社長交代後に会長として残らず、完全に引いたことです。Governance Qで髙田明氏は、事業承継を特別な制度論としてではなく、「普通にやっただけ」と語っています。ダイヤモンド・オンラインも、この継承を先代が会社に残らない珍しいケースとして紹介しています。
この退き方は、後継者にとって大きな意味を持ちました。創業者の影響力が社内に残り続けると、現場は新社長の方針を見極めるより、先代の意向を忖度しやすくなります。ジャパネットでは、その曖昧さを意図的に排したとみるべきです。実際、同社の公式サイトでは、ジャパネットホールディングスが2007年設立の持株会社であり、2015年の体制変更に伴って「戦略部隊として新しいスタート」を切ったと説明しています。
この構造転換は象徴的です。創業者のテレビ出演が売り場そのものだった時代から、グループ全体の人事、広報、システム、事業戦略を持株会社で束ねる体制へ変えたことで、強みの再現性が高まりました。2024年度のポーター賞でも、ジャパネットの通信販売事業は、商品選定力、多層的なコミュニケーションチャネル、対面販売のような安心感、購入後対応まで含めた利便性が評価されています。個人技に見えた販売力を、仕組みとして磨き直した結果だといえます。
改革の本丸は「何を伸ばすか」より「どう回すか」
サンリオはキティ依存からIPポートフォリオ経営へ
辻氏の改革が評価された最大の理由は、サンリオを「ハローキティの会社」から、複数IPを束ねる企業へ近づけたことです。nippon.comによれば、売り上げに占めるハローキティ比率は過去10年で75%から50%へ低下しました。クロミやシナモロールなど複数キャラクターへの投資、デジタル接点の拡大、映像やライセンスの多層化が進んだためです。
公式の新中期経営計画でも、2025年3月期の営業利益は518億円となり、かつて10年目標として掲げた500億円を前倒しで達成しました。ただしサンリオ自身は、これで安心とは見ていません。次の中計では「ボラティリティの高い状態から抜け出す」ことを掲げ、安定・永続成長へ軸足を移しています。つまり、急回復を成功として祝うだけでなく、業績の振れ幅そのものを経営課題と見ているのです。
JAPAN Forwardで辻氏は、サンリオをより大きなエンターテインメント企業へ進化させるには、デジタル領域やスポーツ、教育まで含めた接点拡張が必要だと語っています。創業理念の「みんななかよく」は残しつつ、収益化の回路は大きく更新しているわけです。理念を固定し、事業ドメインは柔軟に広げる。この切り分けが、二代目改革の強さになっています。
ジャパネットは通販企業から地域創生企業へ横展開した
ジャパネットの改革も同じく、祖業を否定せずに成長の面を増やす方向でした。通販の核は維持しながら、旅行、BS放送、スポーツ、地域創生へと事業領域を広げています。特に転機となったのが長崎スタジアムシティです。ジャパネットグループは地域創生事業を新たな柱として育て、2024年10月には同施設を開業しました。開業前には約1000人の雇用創出計画を公表しており、単なる不動産案件ではなく、地域経済と雇用を含む事業構想として進めていたことがわかります。
この点で髙田氏の経営は、創業者の販売力を受け継ぎつつも、企業の存在意義を「モノを売る」から「生活体験を設計する」方向へ押し広げています。通販、旅行、クルーズ、スポーツ観戦、街づくりは一見ばらばらですが、「今を生きる楽しさ」を顧客に届けるというグループメッセージでつながっています。創業者の哲学を抽象化し、別の市場へ展開可能な言葉に変えた点が、二代目らしい仕事です。
サンリオとジャパネットの制度化課題
二代目経営を語るとき、しばしば「創業者より大胆か、保守的か」という単純な比較に流れがちです。しかし実際には、両社とも残すものと変えるものをかなり厳密に選り分けています。サンリオは理念とIPの核を残し、組織運営と収益モデルを変えました。ジャパネットは顧客目線を残し、意思決定の仕組みと事業ポートフォリオを変えました。成功の共通項は、先代を否定しないことではなく、何を制度化し何を卒業するかを明確にしたことです。
今後の焦点もはっきりしています。サンリオは高成長の反動を抑えつつ、グローバルで継続的に稼げるIP群をどこまで厚くできるかが問われます。ジャパネットは地域創生事業をグループ全体の収益とブランド価値向上へどう結びつけるかが次の勝負になります。いずれも、創業家出身であること自体は優位でも弱点でもありません。組織を個人の影響力から切り離し、再現性ある仕組みに変えられるかが評価軸になります。
血縁より設計力で決まる事業承継
サンリオの辻朋邦氏とジャパネットの髙田旭人氏は、どちらも「偉大な先代の後を継いだ二代目」として語られがちです。しかし公開情報を追うと、実像はもっと実務的です。両者は、創業者の物語を受け継ぐだけでなく、組織設計、経営チーム、投資対象、事業の意味付けまで手を入れてきました。
事業承継の成否は、血縁ではなく設計力で決まります。創業者の強さを神話化せず、再現可能な仕組みに翻訳できるか。その点で、サンリオとジャパネットの改革は、成熟企業の承継を考える上で非常に示唆に富んでいます。
参考資料:
- 中期経営計画 | 株式会社サンリオ
- 中期経営計画(2022年3月期~2024年3月期) | 株式会社サンリオ
- 会社概要 | 株式会社サンリオ
- 「ハローキティ」50周年、「カワイイ」魅力の謎と進化をたどる | nippon.com
- INTERVIEW | President Tsuji’s Insider View on Sanrio as a Global Entertainment Company | JAPAN Forward
- President of Hello Kitty creator Sanrio steps down after 60-yr stint | Kyodo News
- ジャパネットホールディングス | ジャパネットグループサイト
- ジャパネット創業家親子が今だから話せる事業承継の真実 | ダイヤモンド・オンライン
- 髙田明・ジャパネットたかた創業者「息子に社長を譲って会長に就かなかった理由」 | Governance Q
- ジャパネットホールディングス 2024年度「ポーター賞」を受賞 | PR TIMES
- 長崎スタジアムシティ開業までに1,000人の雇用創出 | ジャパネットグループサイト
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