都心部タワマン所有者不在、修繕合意と住宅価格高騰の深刻な盲点
都心部タワマンを住宅ではなく資産で見る視点
都心部のタワーマンションで、所有者がその住戸に住んでいないとみられるケースが注目されています。登記上の住所と物件所在地が違うことは、ただちに空室を意味しません。賃貸、セカンドハウス、法人所有、親族利用、海外在住者の保有など、複数の実態が混在します。
それでも、所有と居住が分離するほど、管理組合の運営は難しくなります。建物は居住者の生活インフラである一方、所有者にとっては値上がり益や資産保全を狙う投資対象でもあります。この二つの目的が同じ建物の中でぶつかることが、タワマン問題の核心です。
登記住所の不一致が示す所有と居住の分離
住所不一致を空室と同一視できない実態
登記住所が物件所在地と異なる住戸を「所有者不在」と呼ぶ場合、最初に確認すべきなのは、そこに誰も住んでいないとは限らない点です。所有者本人が住まず、賃借人が住んでいる場合もあります。会社名義で購入され、役員社宅や来客用住戸として使われる場合もあります。
一方で、登記住所は管理組合にとって重要な連絡先です。総会資料、議決権行使書、修繕積立金の改定案、専有部への立ち入り調整など、管理の実務は所有者との連絡を前提に動きます。登記上の住所が海外や遠隔地にあり、実際の意思決定者までたどり着きにくい場合、合意形成の時間と費用は増えます。
国土交通省は2025年11月、不動産登記情報を活用して新築マンションの取引実態を調べた結果を公表しました。対象は2018年1月から2025年6月までに保存登記がなされた三大都市圏と地方4市の新築マンション約55万戸です。ここでは、購入後1年以内の短期売買や、国外に住所がある者による取得が分析されています。
この調査で重要なのは、マンション市場の把握に登記情報が政策上の基礎データとして使われ始めたことです。国交省の発表は、東京都を中心に大阪府や兵庫県の一部でも短期売買の割合が高く、中心部ほどその傾向が強いと説明しています。つまり、都心タワマンの所有実態は、個別物件のうわさではなく、行政が継続調査すべき市場現象になっています。
短期売買と国外住所取得の増加傾向
所有者不在の背景を考える際、短期売買と国外住所取得は分けて見る必要があります。短期売買は、取得後の早い段階で転売される取引です。国外住所取得は、登記上の取得者住所が日本国外にある取引です。どちらも実需以外の需要を示す可能性がありますが、同じ意味ではありません。
国交省の大臣会見では、2025年上半期に登記された新築マンションのうち、1年以内に売買された割合が東京23区で9.3%、都心6区で12.2%だったと説明されています。さらに、国外からの取得割合は東京23区で3.5%、都心6区で7.5%でした。大臣は、不動産登記情報には国籍が含まれないため、国内住所を持つ外国人の取得実態は把握できないとも述べています。
この点は、議論を過度に単純化しないために重要です。都心部の高額マンション価格を押し上げている要因は、海外マネーだけではありません。国内富裕層の相続対策、法人の資産保有、低金利期に形成された投資資金、建築費の上昇、駅近再開発による希少性が重なっています。
東京カンテイの調査をもとにした2025年末のマンションストック分析では、全国のタワーマンションは1,602棟、42万1,784戸に達しています。棟数では東京都が507棟、大阪府が288棟とされ、東阪の都心部に高層住宅ストックが集中しています。2025年には全国で42棟、1万2,123戸が竣工し、2026年も39棟、1万3,444戸の竣工が予定されています。
供給が増えるほど、管理の問題は新築時点では見えにくくなります。販売時には眺望、駅距離、共用施設、資産性が強調されます。しかし完成後は、エレベーター、機械式駐車場、非常用発電機、防災設備、給排水設備、外壁、屋上防水などを何十年も維持する建築物になります。所有者が居住者から離れるほど、この長期の維持管理に対する関心は薄くなりやすいのです。
修繕積立金不足を深める高層住宅の合意コスト
高経年化と役員不足の同時進行
マンション管理の難しさは、タワマンだけの問題ではありません。国交省の2023年度マンション総合調査では、全国の管理組合向け調査で1,589件、区分所有者向け調査で3,102件の有効回答が集められました。調査結果では、70歳以上の世帯主割合が25.9%となり、1984年以前に完成したマンションでは55.9%に達しています。
同じ調査では、賃貸住戸のあるマンションが77.8%、空室があるマンションが34.0%でした。さらに、長期修繕計画に基づいて修繕積立金を設定しているマンションは59.8%にとどまり、計画上の積立額に対して現在の積立額が不足しているマンションは36.6%でした。居住者の高齢化、賃貸化、空室化、資金不足が同時に進む構図です。
タワマンでは、この構図に高層建築特有の設備負担が加わります。高層階の眺望やブランド価値は価格に反映されやすい一方、建物全体の修繕は区分所有者全員の負担で進みます。高層階の所有者、低層階の所有者、賃貸オーナー、実際に住む世帯では、管理費や修繕積立金の引き上げに対する受け止めが違います。
特に投資目的の所有者は、毎月の固定費上昇を利回り低下として見ます。居住者は、漏水、防災、エレベーター停止、外壁落下など生活リスクとして見ます。この視点の差が、総会での議決や委任状集めを難しくします。建設・修繕の現場から見ると、合意形成の遅れは工事費の上振れや施工時期の先送りにつながり、結果として資産価値を損ねる要因になります。
大規模修繕に乗るタワマン固有の負荷
国交省は長期修繕計画作成ガイドラインと修繕積立金ガイドラインを示し、管理組合が計画的に資金を積み立てる必要性を明確にしています。タワマンの場合、外壁や設備の点検、足場・ゴンドラ・仮設計画、共用設備の更新、防災設備の維持などで、一般的な中低層マンションよりも工事管理の難度が上がりやすいです。
また、共用部の仕様が高い物件ほど、更新時の選択肢も難しくなります。ホテルライクな内廊下、ラウンジ、ゲストルーム、ジム、防災センター、複数系統のエレベーターは、販売時には魅力です。しかし更新期には、どこまで維持するか、グレードを落とすか、管理費を上げるかという現実的な判断が必要になります。
所有者の住所が散らばると、こうした議論の前提である情報共有が弱くなります。議案書を送っても反応がない、説明会に参加しない、賃借人は不便を感じても議決権を持たない、海外住所の所有者は時差や言語の壁で連絡が遅れる、といった実務上の摩擦が出ます。管理会社任せにできる範囲にも限界があります。
東京都は、分譲マンションの管理不全を予防するため、2019年に条例を制定し、2020年4月から管理状況届出制度を始めました。1983年以前に新築された6戸以上のマンションを要届出マンションとし、管理組合の運営体制、管理規約、総会開催、管理費、修繕積立金、計画修繕などの状況を届け出る仕組みです。
東京都のマンション管理・再生促進計画では、2021年末時点で届出が約9,400件、届出率が約80%に達したとされています。さらに2026年度には、管理組合や管理規約がないなど管理不全の兆候があるマンションに対し、マンション管理士を原則2年間派遣する伴走型支援も募集されています。行政がここまで踏み込むのは、管理不全が私有財産内の問題に収まらず、周辺環境や都市防災に波及するからです。
大阪市も、管理計画認定制度で管理者等の設置、監事の選任、年1回以上の集会開催、管理規約の作成、修繕履歴情報の管理、財務・管理情報の提供体制などを認定基準に掲げています。大阪府も町村域などを対象に管理計画認定の手続きを整えています。大阪都心部でタワマン供給が増えるほど、東京と同じ管理課題が時間差で顕在化する可能性があります。
法改正でも残る投資所有と地域防災の課題
2025年に成立・公布されたマンション関係法改正は、管理や再生の円滑化を狙う大きな制度変更です。国交省は、マンションと区分所有者の「2つの老い」を背景に、管理適正化法や建替え円滑化法などを改正したと説明しています。改正区分所有法を踏まえた標準管理規約の見直しも進み、2026年4月1日以降の総会手続きでは改正後の定足数や決議要件を意識する必要があります。
ただし、法改正だけで投資所有の問題が消えるわけではありません。所有者名簿の更新、連絡先の二重化、電子議決権行使、外国語対応、賃借人への防災情報提供、修繕積立金の将来不足の見える化などは、各管理組合の実務に落とし込む必要があります。管理規約を変えても、所有者が内容を理解し、総会に参加しなければ機能しません。
税制面でも、マンションの金融商品化への対応は進んでいます。国税庁は2024年1月1日以後の相続・贈与から、居住用の区分所有財産の評価に新たな方法を適用しています。評価には総階数指数や所在階などが関係し、高層階ほど市場価格との乖離が大きくなりやすい実態を意識した仕組みです。相続税評価のゆがみを縮める動きは、タワマンが節税商品として過度に使われてきたことの裏返しでもあります。
国交省の不動産価格指数では、2026年3月31日に公表された2025年12月分のマンション区分所有指数が225.1でした。2010年平均を100とする指数で、住宅地や戸建住宅よりもマンション価格の上昇が目立ちます。価格が上がる局面では、管理費や修繕積立金の引き上げへの抵抗感が一時的に薄れますが、相場が反転すれば未解決の管理負担が一気に資産価値を押し下げる可能性があります。
購入者と管理組合が確認すべき実務項目
都心部タワマンの所有者不在問題は、富裕層批判や外国人購入批判だけで片づけるべきではありません。焦点は、所有者がどこにいても、建物を維持する責任を果たせる仕組みがあるかです。住宅である以上、資産価値は管理品質に依存します。
購入者は、価格や眺望だけでなく、長期修繕計画、積立金残高、値上げ予定、議決権行使率、賃貸住戸比率、外部所有者への連絡体制を確認すべきです。管理組合は、名簿更新と電子化、委任状・議決権行使の回収率改善、災害時の居住者把握、投資所有者への説明責任を急ぐ必要があります。
タワマンは都市の象徴であると同時に、巨大な共同インフラです。所有と居住の分離が進むほど、建物を支える制度と実務の強さが問われます。今後の価格を見るうえでも、最上階の成約価格だけでなく、管理組合が将来の修繕を決め切れる状態にあるかが、より重要な判断材料になります。
参考資料:
- 高経年マンションに居住する70歳以上の世帯主が半数以上に 令和5年度マンション総合調査結果
- マンションに関する統計・データ等
- マンション関係法令
- マンション標準管理規約
- マンション管理
- 不動産登記情報を活用した新築マンションの取引の調査結果を公表
- 金子大臣会見要旨 2025年11月25日
- 不動産価格指数
- 管理状況届出制度
- 東京 マンション管理・再生促進計画
- マンションの管理不全予防・改善支援事業 伴走型の応募者募集開始
- 大阪市 分譲マンション管理計画認定制度 認定基準
- 大阪府 マンション管理適正化法に基づく管理計画認定等
- 都道府県・主要都市のマンションストック戸数&マンション化率 2025
- 居住用の区分所有財産の評価について 法令解釈通達
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