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トヨタ中国次世代EV、主要部品現地化で揺らぐ日系系列網の行方

by 田中 健司
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中国EV調達が系列秩序を揺らす背景

トヨタの中国EV戦略で焦点になっているのは、単に新型レクサスを上海で造るという話ではありません。電池、電動パワートレーン、知能化部品、車体製造設備まで、調達の重心が中国の産業集積へ移る可能性です。

中国では新エネルギー車がすでに主流市場に近づき、開発速度と価格競争が完成車メーカーの生死を左右しています。日系部品メーカーにとっては、長年の系列取引や品質実績だけで受注を守れる局面ではなくなりました。この記事では、トヨタの公式発表、市場統計、業界資料から、調達構造の変化を読み解きます。

上海レクサス工場に込めた現地化戦略

年10万台の独資工場が持つ意味

トヨタは2025年2月、上海市政府との包括的提携とあわせて、上海市金山区にレクサスブランドのBEVと電池を開発・生産する会社を独資で設立すると発表しました。生産開始は2027年以降、当面の生産能力は年10万台程度、新規雇用は約1000人とされています。

上海市側の発表では、同プロジェクトの投資額は146億元、初期用地は約112.8ヘクタールです。金山区では2025年6月に工場建設が始まり、2027年の稼働が見込まれています。これは中国でのレクサス生産拠点というだけでなく、トヨタが中国のEV産業クラスターに深く入り込む意思表示です。

重要なのは、独資工場が「日本から持ち込む工場」を意味しない点です。むしろ独資により、トヨタは合弁相手の既存調達網に縛られず、中国市場に最適化した部品選定や生産技術の導入を進めやすくなります。工場の所有形態はトヨタ単独でも、競争力の源泉は上海と長江デルタの部品、物流、人材の厚みにあります。

この構図は、従来の日系サプライヤーにとって厳しいものです。エンジン車やハイブリッド車では、完成車メーカーと系列部品会社が同じ設計思想を共有し、海外拠点でも日本式の品質・改善活動を展開してきました。しかしEVでは、電池セル、電池パック、熱管理、電子制御、車載OS、センサー、鋳造設備など、競争軸そのものが変わります。

bZ3で先行したBYD協業

トヨタはすでに中国EVで、現地企業との深い協業を経験しています。2022年発表のTOYOTA bZ3は、トヨタ、BYDとの合弁会社であるBYD TOYOTA EV TECHNOLOGY、そして一汽トヨタの3社連携で開発されました。トヨタからは100人以上のエンジニアが参画し、BYDのLFP電池をベースに電池構造や冷却、制御、安全監視を作り込んでいます。

この事例は、トヨタが中国で「自前主義」を捨てたというより、守るべき品質領域と外部から取り込むべき速度・コスト領域を切り分け始めたことを示します。BYDは電池、モーター、電動車プラットフォームで量産実績を持ち、中国市場での価格競争にも慣れています。トヨタにとっては、中国顧客の求める価格帯と商品投入速度に合わせるための現実的な選択です。

2023年には、中国最大のR&D拠点をIEM by TOYOTAへ改称し、一汽トヨタ、広汽トヨタ、BTETのエンジニアを横断的に開発へ投入する体制も整えました。発表では、デンソーとアイシンも電動パワートレーン開発に参画しつつ、現地サプライヤー開拓、部品設計の見直し、生産技術改革で製造コストの大幅削減に挑むとしています。

つまり上海レクサス工場は、突然現れた例外ではありません。bZ3でのBYD協業、bZシリーズの中国専用開発、IEM by TOYOTAによる現地R&D強化の延長線上にあります。日系部品メーカーが直面しているのは一案件の失注ではなく、開発主導権が日本から中国現地へ移る構造変化です。

中国サプライヤー優位を生む速度とコスト

電池と知能化を握る現地勢

中国自動車市場の規模は、部品産業の競争力そのものを押し上げています。中国汽車工業協会のデータを基にした報道では、2025年の中国自動車販売は3440万台、新エネルギー車販売は1649万台で前年比28.2%増でした。新車販売に占める比率は47.9%に達しています。

IEAも、2025年に中国で販売された電動車は1300万台超、販売比率はほぼ55%に達したと分析しています。月次では12カ月中11カ月で電動車の販売比率が50%を超えました。これだけの市場があると、電池メーカー、センサー企業、ソフトウエア企業、鋳造設備メーカーは短いサイクルで量産経験を積めます。

日系部品メーカーの強みは、品質の安定性、量産管理、長期信頼性です。一方、中国勢の強みは、EV専用部品での納入実績、仕様変更への対応速度、価格競争力です。完成車メーカーが中国で生き残るには、後者を無視できません。特にスマートコックピットや運転支援では、地図、音声認識、アプリ連携、クラウド運用が中国独自の生態系に依存します。

トヨタ中国が2025年の上海モーターショーで示した方向性も象徴的です。中国人エンジニアが開発責任を担うRCE体制を打ち出し、中国市場で得た知見をグローバルへ還元する姿勢を示しました。広汽トヨタなどとの共同開発車では、中国の知能化技術を取り込む姿勢が鮮明です。

ギガキャストが変える部品点数

調達変化は電池やソフトだけにとどまりません。トヨタは次世代BEVの生産技術として、ギガキャストや自走組立ラインを掲げています。従来は数十点の板金部品を溶接していた領域を、アルミダイカストで一体成形し、部品点数や工程を減らす構想です。量産準備期間、生産工程、工場投資を従来比で大きく下げる狙いがあります。

この変化は、プレス部品、溶接治具、車体骨格部品を得意としてきたサプライヤーに直接響きます。部品点数が減れば、発注品目そのものが減ります。代わりに重要になるのは、大型鋳造設備、金型、アルミ材料、解析技術、鋳造品質管理です。調達の入り口が変われば、選ばれる企業も変わります。

業界誌Castings SAは、上海レクサス工場がギガキャストを採用し、9000トン級のダイカスト機で中国メーカーのHaitianが候補と報じています。Haitian側の公開情報でも、同社は8800トン級までの大型冷間室ダイカスト機を生産し、年4000台規模の生産能力を持つと説明しています。トヨタ公式が個別設備サプライヤーを明らかにしたわけではありませんが、中国勢が大型鋳造設備で存在感を増していることは確かです。

工場の競争力は、個別部品の安値だけで決まりません。EVでは車体構造、電池搭載、熱管理、ソフト更新、検査工程まで一体で設計する必要があります。中国サプライヤーが完成車メーカーの設計初期から入り、短い開発周期で試作と量産を往復できるなら、従来型の「図面を受けて高品質に造る」だけでは競争が難しくなります。

日系部品メーカーに迫る選別と再配置

日系サプライヤーにとって最も厳しいのは、中国の完成車メーカーだけでなく、トヨタのような長年の顧客も調達基準を変えている点です。浜銀総合研究所の現地取材レポートは、従来型ガソリン車やハイブリッド車では日系サプライヤー比率が7〜8割程度とされる一方、EVでは半分程度に縮小するとの業界関係者の見方を紹介しています。

同レポートは、テスラ上海工場が徹底した現地化を進め、中国地場サプライヤーの能力向上を促した点にも触れています。トヨタの上海レクサス工場でも高い現地調達率を目指すとの見方があり、日系部品メーカーは「中国に拠点がある」だけでは不十分です。中国企業と同じ速度で見積もり、設計変更、試作、価格改定に応じられるかが問われます。

ただし、現地化はリスクも伴います。中国EV市場は値下げ競争が激しく、部品メーカーの収益を圧迫しやすい構造です。電池やソフトウエアでは、安全性、サイバーセキュリティ、データ規制、知的財産の管理も課題になります。トヨタが品質と安全を重視する限り、全てを安価な現地部品へ置き換えるわけではありません。

そのため日系サプライヤーの活路は三つあります。第一に、中国現地で意思決定と開発を完結させる体制への転換です。第二に、電池周辺、熱管理、制御、安全部品など、高信頼性が価格以上に評価される領域への集中です。第三に、中国で鍛えられた部品や工程を、ASEAN、インド、北米向けに展開する再輸出型の事業設計です。

読者が追うべき調達転換の実像

今後見るべきは、上海レクサスEVの車名や外観だけではありません。電池セルとパックの供給元、電動アクスル、運転支援、コックピット、鋳造設備、車体骨格部品の採用企業が、調達転換の実像を示します。日本企業が受注できたかだけでなく、どの工程で設計主導権を持てたかが重要です。

トヨタは系列を捨てるのではなく、中国EV市場で通用するサプライヤーを選び直している段階です。品質、コスト、速度、知能化対応を同時に満たす企業だけが残ります。日系部品メーカーにとって上海レクサス工場は、失注の象徴であると同時に、次の競争条件を学ぶ試験場でもあります。

参考資料:

田
田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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