企業不動産を成長の核に変える不動産起点経営と資産循環の実務論
CRE戦略で脱する不動産メタボ
企業不動産を巡る議論は、アクティビストに売却を迫られるか、守り切るかという二択で語られがちです。しかし実務では、その発想では遅れます。国土交通省が示すCRE戦略は、企業不動産を「企業価値向上」の観点から見直す考え方です。重要なのは、持つか手放すかではなく、資産を事業として回せるかどうかです。
東証が2024年11月に公表した「投資者の目線とギャップのある事例」も、この点を示しています。投資家が求めているのは抽象論ではなく、資産の再配置、収益モデル、資金使途の具体性です。本記事では、「不動産メタボ」から脱する現実的な道として、不動産起点経営の考え方と実務の型を整理します。
不動産起点経営の中身
CRE戦略は資産圧縮ではなく企業価値設計
国土交通省のガイドラインによれば、CRE戦略とは企業不動産を経営戦略の視点から見直し、不動産投資の効率性を高める考え方です。ここでの核心は、遊休地の売却だけではありません。本社、工場跡地、社宅、賃貸住宅、オフィス、物流施設を、収益性、成長性、事業シナジーの観点で棚卸しし、持つ理由と持たない理由を整理することです。
このとき、不動産は三つに分かれます。第一に、本業の競争力を支える「使う資産」です。第二に、開発や賃貸、運用で利益を生む「稼ぐ資産」です。第三に、どちらにも当てはまらない「眠る資産」です。「不動産メタボ」からの脱却とは、第三の資産を減らし、第一と第二に資本を寄せる作業だと言えます。
東京ガスに見る不動産起点の事業化
非不動産業の企業でも、この転換は可能です。東京ガスは事業紹介ページで、140年にわたり取得・活用してきた首都圏の保有地を最大限活用し、資産の効率的な活用と事業性の両立を図る循環型の開発・運用モデルに取り組むと説明しています。単なる土地持ち企業ではなく、不動産とエネルギーシステムの一体開発・運用を強みとして打ち出している点が特徴です。
同社はさらに、グループ拠点の集約、売却・外部賃貸を含めたCRE戦略で資産価値を高めるとし、既存物件を売却して資金回収を早め、その資金をより高収益の物件へ振り向けるキャピタルリサイクルを明示しています。ここでは不動産が「余剰資産」ではなく、運用益、開発益、アセットマネジメント報酬を生む事業基盤へ転換されています。
成長に結び付ける三つの実務モデル
私募REITで資産を回しながら運用収益を残す設計
東京ガスは2024年3月、非上場オープンエンド型の私募REITを立ち上げ、運用開始時の資産規模を約200億円、2025年には500億円超へ拡大する目標を掲げました。運用当初の組み入れ資産は賃貸住宅14棟です。ここでのポイントは、資産を外に出して終わりではなく、スポンサーと運用会社として関与し続けることです。
この方式なら、バランスシートを軽くしながら、開発利益だけでなく運用報酬も確保できます。加えて、建物に自社の脱炭素ソリューションや防災機能を組み込み、ESG型不動産として差別化できます。つまり私募REITは、単なるオフバランス手法ではなく、「不動産を売った後も稼ぐ」ための器です。
売却益を次の投資へつなぐ資産循環の徹底
不動産起点経営では、売却そのものが目的ではありません。東京ガスの2026年度計画では、2026年度見込みに不動産の固定資産売却損益82億円、2025年度見通しに365億円を織り込んだうえで、2026年度の連結投資を4777億円、資産売却などのキャッシュイン控除後で4145億円としています。会社側も、利益成長と資本効率向上のために資産の入れ替えを実行すると明記しました。
この数字が示すのは、売却益を特別利益で終わらせず、次の投資の原資として組み込んでいることです。遊休地の処分で一息つくのではなく、高収益案件、成長分野、設備更新に資金を流す。資産循環が回り始めると、不動産は財務改善の材料から経営の再投資装置へ変わります。
事業化できない資産は秩序立った撤退で処理
もちろん、すべての企業が不動産運用会社になれるわけではありません。開発、人材、リーシング、運用の機能がなければ、保有継続は価値創造ではなく先送りになりがちです。その場合の現実解は、資産の切り出しと売却を秩序立って進めることです。
その代表例がサッポロホールディングスです。Reutersは2025年12月、同社が不動産事業をKKRとPAG主導の陣営へ4770億円で売却し、資金を成長投資、負債圧縮、株主還元に充てると報じました。これは「宝の持ち腐れ」を解消する典型形です。内製で伸ばせないなら、価値が高いうちに外部資本へ渡し、自社は強みのある領域へ資源を戻す方が合理的です。
東証が問う売却後の資金使途設計
売却だけでは評価されない時代
注意したいのは、売却の意思決定だけで企業価値が上がる時代ではないことです。東証が投資家とのギャップ事例を出したのは、表面的な「検討中」では不十分だからです。何を残し、何を売り、売却代金をどこへ振り向けるのか。その説明が弱ければ、経営の主体性は評価されません。
また、オフィスや商業施設を売って賃借に切り替える場合は、賃料負担や契約柔軟性も見なければなりません。不動産の簿価を軽くしても、固定費が増えて本業の競争力を削れば本末転倒です。したがって「不動産起点」とは、不動産部門を大きくする話ではなく、本業・財務・資本政策をつなぐ設計思想だと理解する必要があります。
東京ガスに見るCREと私募REITの成長装置
「不動産メタボ」の生きる道は、抱え込むことでも、一気に売り払うことでもありません。企業不動産を、使う資産、稼ぐ資産、眠る資産に分け、事業化できる部分は運用・開発の仕組みに乗せ、難しい部分は規律ある撤退で現金化することです。
東京ガスのように、CRE戦略、私募REIT、資産循環を組み合わせれば、不動産は防衛対象ではなく成長の起点になります。逆にこの設計がなければ、含み益はあるのに企業価値は上がらないという状態が続きます。いま求められているのは、不動産を「持つ技術」ではなく、「回して稼ぐ技術」です。
参考資料:
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