GMO熊谷社長の「運動優先」経営術、業績過去最高の裏側
はじめに
「運動している経営者と、そうでない経営者はやっぱり分かりますよ」。GMOインターネットグループの熊谷正寿会長兼社長は、こう断言します。62歳にして「今が人生で一番体調がいい」と語る熊谷氏は、40年以上にわたって筋力トレーニングを続けてきた人物です。
注目すべきは、この健康哲学が個人の趣味にとどまらず、組織全体のパフォーマンス向上策として体系化されている点です。GMOインターネットグループは社内にフィットネスジムや仮眠室を完備し、2022年には「健康経営宣言」を発表。その結果、2024年12月期は売上高・営業利益ともに過去最高を更新しました。
本記事では、熊谷氏が実践する「休養学」に基づく経営術と、健康経営が企業業績にもたらす効果について解説します。
熊谷正寿氏の「運動優先」哲学
40年以上続く筋トレ習慣
熊谷氏は若い頃から筋力トレーニングを日課としており、その継続期間は40年以上に及びます。忙しい経営者のスケジュールの中でも、運動の時間を最優先で確保しているのが特徴です。
熊谷氏の持論は明確です。忙しいことは睡眠や運動をおろそかにする理由にはならないという考え方です。むしろ、経営者こそ自分自身のパフォーマンスを最大限に維持するために、運動と休養を意識的に取り入れるべきだと主張しています。
「仕事より運動を優先」の真意
一見すると極端に聞こえる「仕事より運動を優先」というフレーズですが、その背景には合理的な計算があります。経営者の判断力や集中力は、企業全体の業績を左右します。トップのコンディションが悪ければ、重要な意思決定の質が低下し、組織全体に悪影響を及ぼしかねません。
つまり、経営者が運動や休養に時間を割くことは、個人の健康管理であると同時に、組織のパフォーマンスを最大化するための経営判断でもあるのです。熊谷氏はこの考えを自ら実践し、社員にも積極的に促しています。
GMOが構築した健康経営の仕組み
社内フィットネスジム「GMO OLYMPIA」
GMOインターネットグループは2022年7月、第2本社がある渋谷フクラス15階のオフィス内に、完全無料のフィットネスジム「GMO OLYMPIA(オリンピア)」をオープンしました。バイク、筋力トレーニングマシン、フリーウエイト、クロストレーナーなどの機器を備え、社員は24時間いつでも無料で利用できます。
筋トレ、ダイエット、健康維持、リフレッシュ、肩こりや腰痛の予防など、一人ひとりの目的に応じた利用が可能です。オフィス内にジムがあることで、通勤前や昼休み、退勤後の隙間時間に気軽に運動できる環境が整っています。
「食・癒・躍・医」の福利厚生プログラム
GMOの健康経営は、フィットネスジムだけにとどまりません。同社は「食」「癒」「躍」「医」の4つの柱で福利厚生を構築しています。
「食」の面では、社内カフェ「GMO Yours」が無料で健康的な食事や飲み物を提供しています。栄養バランスの取れた食事を職場で手軽に摂れる環境は、社員の食生活の改善に直結します。
「癒」の面では、マッサージ&おひるねスペース「GMO Bali Relax」を設置しています。2012年にはお昼寝スペース「GMO Siesta」も導入されました。仮眠が午後のパフォーマンスを向上させることは科学的にも支持されており、短時間の仮眠を推奨する企業は増えています。
これらの施設整備は2010年の「仲間の笑顔を増やす会社宣言」に端を発しており、10年以上にわたって一貫した方針で拡充されてきました。
2022年の「健康経営宣言」
2022年、GMOインターネットグループは正式に「健康経営宣言」を発表しました。社員(同社では「パートナー」と呼称)の健康を経営の重要な柱と位置付け、より一層の健康促進活動を推進することを明確にしたものです。
この宣言は、従来の福利厚生の延長線上にあるものですが、トップダウンで健康経営を明文化したことで、組織全体への浸透力が格段に高まりました。
健康経営と業績の相関
売上高・営業利益ともに過去最高
GMOインターネットグループの2024年12月期決算は、連結売上高が2,774億円、営業利益が466億円で、いずれも過去最高を記録しました。10年前と比較すると、売上高は2.5倍、営業利益は3.6倍に成長しています。
もちろん、業績好調の要因は健康経営だけではありません。インターネットインフラ事業、インターネット金融事業、暗号資産事業など、多角的な事業展開が成長を支えています。しかし、社員のコンディションを組織的に維持・向上させる取り組みが、持続的な成長の土台となっていることは間違いないでしょう。
人材確保の競争優位性
健康経営への取り組みは、人材採用においても大きなアドバンテージとなっています。充実した福利厚生は採用市場での差別化要因であり、「働きやすい環境」を重視する若手人材の獲得に有利に働きます。
IT業界は人材獲得競争が激しく、優秀なエンジニアの確保が事業成長の鍵を握ります。社内ジムや仮眠室、無料カフェテリアといった環境整備は、給与だけでは測れない企業の魅力を高める効果があります。
他企業への示唆と今後の展望
経営者自身が実践することの意味
熊谷氏の事例が示すのは、健康経営を推進する上でトップ自らが実践者であることの重要性です。制度を作るだけでは社員に浸透しにくいですが、経営者が率先して運動し、その効果を公言することで、組織文化として定着しやすくなります。
「トップが健康に気を使っているから、自分もやってみよう」という心理的効果は、制度設計以上に大きな推進力となりえます。
中小企業でも取り入れられるポイント
GMOのような大企業の施設投資をそのまま再現するのは、中小企業には難しいかもしれません。しかし、「運動や休養を推奨する文化づくり」「昼寝を許容する雰囲気の醸成」「経営者自身の健康習慣の発信」といった取り組みは、規模を問わず実践できます。重要なのは制度よりも、健康を重視する姿勢を組織文化として根付かせることです。
まとめ
GMOインターネットグループの熊谷正寿社長が実践する「仕事より運動を優先」という経営哲学は、単なる個人の健康習慣ではなく、組織全体のパフォーマンスを最大化する経営戦略として機能しています。社内ジム「GMO OLYMPIA」や仮眠室などの施設整備、2022年の健康経営宣言を経て、同社は売上高・営業利益ともに過去最高を更新しました。
忙しい経営者ほど運動や休養をおろそかにしがちですが、熊谷氏の実績は、トップのコンディション管理が企業の持続的成長に直結することを示しています。健康経営は福利厚生の一環ではなく、経営の根幹に関わる投資として位置付けるべきでしょう。
参考資料:
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