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インド攻略が日本車の命運握る 中国勢台頭下の生産輸出戦略再構築

by 田中 健司
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464.3万台インド市場と日本車の主戦場化

日本の自動車メーカーにとって、いま本当に重要な海外市場はどこかと問えば、答えはますます明確になっています。中国市場は依然として巨大ですが、現地メーカーのEV攻勢が激しく、欧州や日本は需要の伸びが鈍い状況です。その中で、販売台数が伸び、同時に輸出拠点としても厚みを増しているのがインドです。

インド自動車工業会(SIAM)によると、インドの乗用車販売はFY2025-26に464.3万台と過去最高を更新し、輸出も90.5万台で最高でした。2019年から2024年にかけての新車販売でも、インドは380万台から520万台へ伸びた一方、日本は520万台から440万台へ縮んでいます。日本車にとってインドは「有望市場」ではなく、量と成長を確保できる数少ない主戦場になりつつあります。

本稿では、なぜインドを押さえなければ日本車の将来が危うくなるのかを整理します。市場規模だけでなく、生産、部品、輸出物流、政策、中国勢の電動化圧力まで視野に入れると、必要なのは単なる販売強化ではなく、インドを軸にした生産輸出戦略の再構築だと見えてきます。

インド市場が主戦場になる構造変化

需要成長と市場重心の移動

インド市場の重みを最も端的に示すのは、販売の増加ペースです。SIAMはFY2025-26の乗用車販売を464.3万台、輸出を90.5万台と公表しました。2025年度後半はGST減税や金利低下も追い風になり、需要は一段と強まりました。市場として伸びているうえに、輸出余地まで広がっている点が重要です。

世界自動車市場を2019年と2024年で比べると、重心移動はさらに鮮明です。ICAEWがOICAデータを基に示した数字では、インドの新車販売は520万台へ増え、日本は440万台へ減少しました。生産でもインドは450万台から600万台へ増え、日本は970万台から820万台へ縮んでいます。日本勢が自国内需要だけで規模を維持するのは、ますます難しくなっています。

市場の魅力は台数だけではありません。IBEFによると、インドは自動車メーカーに欧州や中南米比で10〜25%の運営コスト優位を提供し、2000年4月から2025年6月までの自動車分野へのFDIは393億ドルに達しました。成長市場でありながら、製造コストでも競争力があるため、販売と生産を一体で考えやすい国になっています。

製造国家としての伸びしろ

インド政府自身も、自動車を単なる消費財産業ではなく、製造業の中核と位置付けています。NITI Aayogの2025年資料によると、自動車産業はインドGDPの7.1%、製造業GDPの49%を占める基幹分野です。2030年には自動車部品の生産を1450億ドル、輸出を600億ドルに引き上げ、200万〜250万人の雇用を創出する構想を掲げています。

同時に、弱点もはっきりしています。NITI Aayogは、インドの自動車部品の世界貿易シェアが3%にとどまり、中国比で約10%のコスト不利があり、エンジン、駆動伝達、ステアリングなど高精度部品の世界シェアは2〜4%だと指摘しました。つまり、インドは巨大市場である一方、供給網の高度化がまだ道半ばです。ここに日本勢の勝ち筋も、逆に取りこぼしのリスクもあります。

日本勢がインドで積み上げてきた基盤

スズキ系が握る量産と物流

日本勢の中で、インドの重要性を最も深く体現しているのはスズキです。マルチ・スズキはFY2025-26に国内販売186万1704台、輸出44万7774台を記録しました。SIAMの乗用車販売総数464.3万台と照らすと、単純計算で約4割を占めていることになります。これは公表値同士からの推計ですが、日本メーカーがインド市場でどれほど大きな足場を持っているかを示す数字です。

生産面でも存在感は際立ちます。マルチ・スズキはFY2025-26に234万台を生産し、インドの乗用車メーカーで初めてこの水準に到達しました。会社側は、インドを輸出ハブとして拡大する親会社スズキの方針のもと、生産能力を年400万台規模まで引き上げる考えも示しています。販売拠点ではなく、スズキ全体の量産中枢としてインドを育てているわけです。

この強さは工場台数だけでは説明できません。マルチ・スズキは2025年に58.5万台を鉄道で出荷し、完成車物流に占める鉄道比率を2016年の5.1%から約26%へ引き上げました。会社は2030年度までに35%へ高める目標も掲げています。完成車輸送の効率化まで進んでいることは、量産を輸出競争力へ変えるうえで大きな意味を持ちます。

トヨタと日産が広げる輸出機能

インドを量販拠点として最も成功しているのはスズキ系ですが、ほかの日本勢もインドの位置付けを変えています。トヨタ・キルロスカ・モーターはCY2025に38万8801台を販売し、うち国内35万1580台、輸出3万7221台でした。2025年7月時点では、カマラジャル港経由で22カ国に累計18万台超を輸出したと公表しています。インドはトヨタにとって国内需要獲得と外需開拓を兼ねる拠点です。

日産も同じ方向へ舵を切っています。日産インドは2025年に累計120万台の輸出を達成し、65カ国向けに供給していると明らかにしました。2026年2月に投入した新型GRAVITEでも「インドは日産のグローバルな野心の中核」と明言し、チェンナイでの現地生産と商品攻勢を打ち出しています。インド市場そのものの攻略に加え、インド発の輸出量を増やしていく構えです。

スズキ本体の統合報告書も、インドを主要事業地域として位置付け、モビリティを超えて「次の10億人」とつながる構想に言及しています。少し大きな言い方に見えるかもしれませんが、これはインドを単なる販売先ではなく、長期の社会基盤、研究開発、人材、サプライヤー育成の場として見ていることを示します。日本車の将来を左右するという見方は、誇張ではありません。

中国勢台頭が迫る戦略転換

EVで先行する中国企業

日本勢がインドを重要視する理由は、インドが伸びているからだけではありません。中国勢が世界の自動車競争のルールを変えつつあるからです。IEAによると、世界のEV販売は2024年に1700万台を超え、中国だけで1100万台超を販売しました。中国は世界のEV生産の7割超を担い、輸出でも2024年に約125万台、世界のEV輸出の40%を占めています。

ICCTの2025年評価では、中国系メーカーがZEV車種カバー率で上位5位を独占し、EV販売比率でも上位6社のうち5社を占めました。GeelyやSAICはEV販売比率50%に達し、2025年目標を1年前倒しで達成しています。中国勢の強みは安価な輸出だけではなく、国内市場の大きさをてこにした規模の経済と技術進化にあります。

その競争圧力は、すでに海外投資にも広がっています。Rhodium Groupによると、中国のZEV企業は2024年に初めて国内より海外へ多く投資しました。電池が中心とはいえ、完成車組立への投資も増えています。つまり、中国勢は輸出と現地生産の両面で海外市場を取りに来ており、日本勢は中国の外で勝てる拠点を持たなければ守り切れません。

インドが防波堤になりきれない理由

もっとも、インドがそのまま中国勢の無風地帯になるわけでもありません。インド政府は2024年に電動乗用車の現地生産促進策を通知し、3年で25%、5年で50%の国内付加価値を求める制度設計を示しました。2026年2月時点で応募がゼロだったことは、現地化条件や事業採算の難しさをうかがわせます。2023年にはBYDの10億ドル規模工場案が、安全保障上の懸念から拒否されたとも報じられました。

ただし、この政策的な壁をもって安心はできません。SIAMはFY2025-26の電動乗用車登録が前年比80%超増えたとしています。EV比率が上がれば、強い電池調達力とソフトウエア更新力を持つ中国系技術の魅力は増します。中国ブランドが正面から大型投資をしなくても、提携、部品供給、技術供与を通じて影響力を広げる余地は残ります。

日本勢にとって怖いのは、インド市場で中国勢に直接押し負けることだけではありません。中東、アフリカ、中南米向けの輸出市場で、中国勢が価格と電動化の両面から先に標準を取ってしまうことです。インドが輸出拠点になるほど、この競争はインド国内販売と不可分になります。だからこそ、インドでの勝敗は日本車全体の将来に直結します。

部品現地化と輸出基地化が握る勝ち筋

よくある誤解は、インド市場さえ大きければ日本勢は自然に勝てるという見方です。実際にはそうではありません。NITI Aayogが示したように、インドの部品産業は高精度領域で弱く、中国比でコスト不利も抱えています。市場成長だけを追っても、駆動系、電池周辺、電子制御、物流の内製化と現地化が進まなければ、利益率は中国勢や現地勢に削られます。

今後の勝ち筋は三つあります。第一に、部品サプライヤーまで含めた現地化を深めることです。第二に、インドを国内販売だけでなく、中東、アフリカ、中南米向けの輸出基地として磨くことです。第三に、EV一本足ではなく、ハイブリッド、CNG、エタノール対応を含む複線の動力戦略で、移行期の需要を取りこぼさないことです。

逆に、インドを中国の代替先として単純に扱う発想は危ういと言えます。中国はすでにEVの規模、電池、価格競争力、海外投資で先行しています。インドは成長市場ですが、同時に供給網整備を要する建設途上の製造国家でもあります。日本勢に必要なのは、販売の強さを工場、港、鉄道、部品、研究開発へ接続する長期戦略です。

インド製造輸出ハブ化にかかる日本車の未来

インドを制さずして日本車に未来なしという見方は、感覚論ではありません。インドの乗用車市場は過去最高を更新し続け、生産と輸出でも存在感を増しています。日本市場が縮み、中国勢がEVで世界標準を押し広げる中、日本勢が規模を確保できる数少ない場所がインドです。

ただし、勝負は販売店の数では決まりません。量産、部品現地化、輸出物流、政策対応まで含めた産業基盤づくりが必要です。スズキ、トヨタ、日産がすでに示しているのは、その方向性です。日本車の将来は、インドでどれだけ深く根を張り、そこを世界市場向けの製造輸出ハブへ育てられるかにかかっています。

参考資料:

田
田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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