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中国EV台頭で日本車苦戦、安さと開発速度に勝つ現地化再生戦略

by 田中 健司
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中国EVが日本車の勝ち筋を変えた理由

日本車が中国で直面している問題は、単なる販売不振ではありません。内燃機関、品質管理、販売店網を組み合わせて築いてきた優位が、EVとPHEVを中心にした新しい産業構造のなかで相対化されています。価格は下がり、モデル投入の周期は短くなり、車の魅力は走行性能だけでなくソフト、車内体験、充電、更新機能へ広がりました。

その象徴がホンダの電動化戦略の見直しです。同社は2026年3月期にEV関連損失1兆5778億円を計上し、北米EV計画の一部を取りやめました。一方、中国では現地開発の専用EVを掲げています。日本車が沈まないための論点は、EVをつくるか否かではなく、中国勢が磨いた「安く、速く、現地に合わせる」仕組みにどう追いつくかです。

「安く速い」競争を生む中国の産業構造

補助金後も残った価格競争力

中国のEV市場は、補助金だけで膨らんだ市場ではありません。AP通信が中国汽車工業協会のデータとして報じたところでは、2024年の中国の全車両販売は3140万台で、EVやPHEVなど新エネルギー車の販売は前年比で4割超増えました。一方、ガソリン車とディーゼル車の販売は17%減の1160万台まで落ち込みました。需要の中心そのものが動いたことが重要です。

この変化は、消費者が「環境対応だから高くても買う」段階を過ぎたことを意味します。中国のEVは、多くの価格帯で内燃機関車に近いか、それを下回る水準を狙っています。BYDは2024年に売上高7771億元、純利益約400億元を計上し、純電動車とハイブリッドを合わせて約430万台を販売しました。量が増えるほど電池、モーター、電子部品の調達単価が下がり、さらに価格を下げられる循環が生まれています。

日本車の課題は、部品ごとの品質を高める従来の改善活動だけでは、この価格低下に追いつきにくい点です。中国勢は電池、パワーエレクトロニクス、車載ソフト、内外装部品を近接したサプライチェーンで束ねています。完成車メーカーが仕様を決め、系列部品会社が長い検証を経て供給する日本型の分業は、信頼性では強みを持ちます。しかし、価格改定と設計変更を同時に回す競争では、意思決定の階層が重さになります。

学術研究でも、中国のEV普及は補助金だけで説明できないと分析されています。2026年公開の研究は、2015年に約1%だった中国のEV販売比率が2024年に約45%へ上昇した背景として、製品品質の向上、選択肢の拡大、電池コストの低下を主要因に挙げています。政策は市場を立ち上げましたが、いま残っている競争力は産業集積そのものです。

開発サイクルを縮める垂直統合

中国勢の強さは、価格だけではありません。モデル更新と機能追加の速さが、海外メーカーの計画を揺さぶっています。BYDは2025年に純電動車販売でTeslaを上回り、英ガーディアンによればBEV販売は226万台に達しました。BYDや新興勢は、車両そのものに加え、運転支援、車内ディスプレー、音声操作、スマートフォン連携を短期間で更新します。

この速度は、単に開発者を増やせば実現できるものではありません。電池会社、半導体企業、車載OSの開発会社、地場部品メーカー、地方政府の産業政策が同じ方向を向いているからです。ワシントン・ポストは、中国が世界の電気自動車の6割超、電池の8割を生産していると報じました。量産現場の近くに部品と人材が集まれば、試作、評価、量産修正の距離は短くなります。

従来の日本車は、完成度を高めてから市場に出す設計思想で信頼を得てきました。安全性や耐久性が重視される自動車では、今もこの思想は不可欠です。ただし、中国の消費者は、発売時点の完成度だけでなく、発売後に機能が増えることも価値として見ます。スマートフォンに近い購買行動が広がるほど、長期の開発計画だけに頼るメーカーは古く見えやすくなります。

そのため、日本車が「品質は高いが高い」「壊れにくいが新しさに欠ける」と見られれば、強みは弱みに反転します。製造業の現場では、品質の作り込みと市場投入の速度はしばしば対立します。しかし中国EV競争では、両方を満たす仕組みを持つ企業が勝ち残ります。日本メーカーに必要なのは、検証を省くことではなく、検証の単位を小さくし、現地で早く回す工程設計です。

ホンダのEV損失が示す旧来戦略の限界

中国専用EVで進んだ現地開発

ホンダは中国で完全に手を止めているわけではありません。2024年4月には中国市場向けの次世代EVシリーズ「烨」を発表し、2027年までに同シリーズ6モデルを投入する計画を示しました。発表資料では、中国で開発したEV専用プラットフォーム、AIアシスタント、現地市場に合わせた空間価値を打ち出しています。中国で2035年に四輪販売をEVへ移行する目標も掲げています。

ここで注目すべきは、ホンダが「日本で作った車を中国へ持ち込む」発想から距離を置いている点です。中国専用の開発基盤を使うことは、ブランドの独自性を一部手放すようにも見えます。しかし、現地の部品、ソフト、人材を使わずに中国価格へ合わせることは難しくなっています。日本車の再建は、どこまで自前主義を残し、どこから現地能力を取り込むかの線引きにかかっています。

ホンダの2026年3月期決算資料は、その重さを数字で示しています。四輪事業はEV関連損失の影響で1兆4111億円の営業赤字となりました。EV関連損失を除けば調整後営業利益は425億円で黒字でしたが、従来事業の利益でEV投資を支える構図は限界に近づいています。グループ全体では営業損失4143億円、親会社所有者帰属の当期損失4239億円です。

同社は2027年3月期の自動車販売をほぼ横ばいの339万台と見込みますが、アジアでは中国の減少を含む下振れを織り込んでいます。つまり、損失処理は一時的でも、中国での販売回復はすぐには見込めないということです。工場、合弁、部品会社、販売店を抱える四輪事業では、販売台数の減少が固定費の重さに直結します。製造業としての痛みは、決算上の減損より長く残ります。

HEV回帰だけでは埋まらない時間差

ホンダはEV需要の鈍化を受け、北米ではHonda 0 Saloon、Honda 0 SUV、Acura RSXの上市および開発中止を示しました。2026年3月の説明資料では、米国EV市場で2021年時点の想定と実績に年150万台程度の差があると説明しています。環境規制や補助金の前提が変わった以上、EV一辺倒の投資を見直す判断は合理的です。

ただし、HEVへの回帰は万能薬ではありません。北米や日本ではハイブリッドが収益を支える一方、中国ではPHEVとレンジエクステンダーを含む新エネルギー車が急速に主流化しています。中国勢のPHEVは、燃費の良さだけでなく、低価格、大型画面、運転支援、長い航続距離を一体で訴求します。日本勢が得意としてきたHEVの技術優位だけでは、車両全体の魅力を説明しきれません。

さらに、輸出圧力も無視できません。2026年上期の中国の乗用車輸出はAP報道で440万台超、6月単月では約90万5000台に達しました。英ガーディアンは中国の月間自動車輸出が6月に初めて100万台を超えたと報じています。国内市場が過当競争になるほど、中国メーカーは海外で販売先を探します。日本車は中国内だけでなく、東南アジア、中東、欧州、中南米でも価格競争を受けます。

つまり、ホンダの戦略転換は「EVを減らしてHEVを増やす」という単純な話ではありません。EV投資の速度を落としながら、中国市場では現地EVを強め、北米ではHEVで稼ぎ、同時にソフト開発を維持する必要があります。この三正面作戦は、財務体力のあるトヨタでも容易ではありません。ホンダや日産のように規模で劣るメーカーほど、共同開発、部品共通化、外部技術の採用をためらう余地は小さくなります。

部品網と人材を組み替える再建シナリオ

日本車の再建で最も難しいのは、ブランド広告ではなく産業基盤の組み替えです。第一に、部品調達を地域ごとに再設計する必要があります。中国向けEVで中国部品を使うだけではなく、日本、北米、ASEANでどの部品を内製し、どの部品を外部から買い、どのソフトを共通化するかを決めなければなりません。電池、インバーター、車載半導体、熱管理部品は、コストと供給安定性の両方で戦略部品です。

第二に、合弁会社の役割を見直す必要があります。中国の合弁は長く、生産と販売の現地化装置として機能してきました。しかしEV時代には、合弁先が持つ消費者データ、ソフト人材、地場サプライヤーとの接点が競争力になります。日本本社が承認するまで仕様を固定できない体制では、現地勢の更新速度に遅れます。権限移譲はリスクを伴いますが、現地で意思決定できないこと自体が最大のリスクになっています。

第三に、工場の価値を「組み立て品質」から「変更に強い生産」へ広げる必要があります。日本メーカーの工場は歩留まりと耐久品質で優れています。しかしEVでは、電池パック、センサー、電子制御ユニット、内装ディスプレーの仕様が短期間で変わります。多品種を安定して流すだけでなく、量産開始後の仕様変更を吸収する工程設計が必要です。建設やインフラの現場で言えば、完成図面通りに造る力に加え、設計変更を安全に処理する施工管理力が問われる局面です。

もちろん、中国勢にも弱点はあります。国内市場の価格戦争は利益を圧迫し、輸出拡大は関税や安全保障規制を招きます。BYDでさえ、国内競争が激しくなれば収益の振れは大きくなります。中国の強さを過大評価し、日本車の蓄積を過小評価する必要はありません。耐久性、量産品質、販売後サービス、事故時の信頼性では、日本メーカーがなお評価される余地があります。

しかし、その強みを維持するには、価格の言い訳に使わないことが条件です。安さで勝てないなら高付加価値へ逃げる、という発想だけでは危ういです。中国EVはすでに低価格車だけでなく、高級車、商用車、海外工場へ広がっています。日本車は、品質を保ちながらコストを下げる現場力を、電池とソフトの時代に移植できるかを問われています。

経営者が注視すべき三つの実行条件

投資家や製造業の経営者が見るべき指標は三つです。第一は、中国とASEANでのモデル投入周期です。2年から3年で主要機能を更新できなければ、価格以前に商品鮮度で負けます。第二は、EV関連損失を除いた四輪事業の実力です。ホンダのように調整後で黒字を保っても、投資負担が続けば余力は削られます。

第三は、現地調達とソフト開発の権限移譲です。日本本社が品質保証を担い、現地が商品仕様と部品選定を速く決める分業を作れるかが焦点です。日本車が再び浮上する道は、過去の成功モデルを守ることではありません。品質を土台にしながら、安さと速さを実装する製造業へ作り替えることです。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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