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永住許可に日本人平均年収要件、企業実務と人材確保への大きな波紋

by 渡辺 由紀
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永住許可厳格化が雇用現場に持つ意味

外国人の永住許可をめぐり、出入国在留管理庁がガイドラインを改定し、年収や年金、日本語能力などの判断材料をより具体化する方向が報じられています。焦点は、独立して生活できるかをみる要件に、原則として日本人世帯の平均を上回る年収水準を求める点です。

永住者は就労活動や在留期間の制限を受けないため、日本で長く働き、家族を持ち、住宅ローンや教育計画を組む外国人材にとって大きな節目です。企業にとっても、永住可能性は採用後の定着や中長期のキャリア形成に直結します。今回の見直しは、単なる入管手続きの変更ではなく、外国人材をどう迎え、どう処遇し、どう生活基盤を支えるかという人材戦略の問題です。

ただし、2026年8月5日時点で確認できる公式ガイドラインは、2026年2月24日改訂版です。新たな金額基準や適用時期の細目は、正式な改定版の公表を待つ必要があります。本稿では、公開済みの制度資料、政府統計、複数の報道を照合しながら、企業と申請者が先回りして確認すべき論点を整理します。

年収・年金要件で変わる独立生計審査

現行ガイドラインの三要件

現行の永住許可は、入管法上の在留資格を持つ外国人が、永住者への在留資格変更を求める手続きです。出入国在留管理庁は、永住者について、在留活動と在留期間の制限がないため、通常の在留資格変更より慎重な審査が必要だと説明しています。

ガイドラインが掲げる法律上の柱は三つです。第一に、法律を守り、日常生活でも社会的に非難されない生活を営んでいるという素行善良要件です。第二に、日常生活で公共の負担にならず、資産や技能から将来も安定した生活が見込まれるという独立生計要件です。第三に、その人の永住が日本の利益に合うという国益適合要件です。

これまでも収入、納税、社会保険料の納付状況は審査で重視されてきました。一方で、一般の申請者に共通する「年収いくら以上」という全国一律の金額は、公式ガイドラインに明記されていませんでした。今回の改定案は、この余地を狭め、審査の物差しを数字で示す方向にあります。

共同通信は、政府が年収や年金の受給見込み額を新たな評価基準に加える方針を固めたと報じました。朝日新聞系の公開記事も、入管庁の改定案として、日本人世帯の平均を上回る年収と、厚生年金に30年加入した場合に相当する年金水準を原則求める方向を伝えています。

平均所得575万2千円の重み

では「日本人世帯の平均」とは、どの程度の水準でしょうか。厚生労働省の2025年国民生活基礎調査では、2024年の全世帯の1世帯当たり平均所得金額は575万2千円です。中央値は451万円で、平均所得金額以下の世帯が61.5%を占めます。

この数字がそのまま永住許可の最低基準になるとは限りません。報道で使われる「年収」と、国民生活基礎調査の「所得」は定義が同じではありません。どの統計を参照するか、給与収入を見るのか所得を見るのか、本人単位か世帯単位か、扶養家族の数をどう調整するかは、正式なガイドラインで確認すべき点です。

それでも、平均所得575万2千円という水準は、申請者にとって軽くありません。国民生活基礎調査では、世帯主が29歳以下の世帯の1世帯当たり平均所得金額は364万3千円です。若年の高度人材や、来日後数年で専門職として働く人にとって、全世帯平均を上回ることは簡単ではありません。

一方、世帯主が30~39歳の世帯は646万9千円、40~49歳は761万8千円、50~59歳は814万6千円です。年齢や家族構成によって平均値が大きく変わる以上、単一の平均を硬直的に使えば、若年層や地方勤務者に不利に働く可能性があります。制度の予見可能性を高める効果と、個別事情を拾いにくくなるリスクが同時に生じます。

年金見込みと金融資産の扱い

もう一つの焦点は、将来の年金受給見込みです。報道では、厚生年金に30年加入した場合の受給水準を一つの目安とし、不足する場合は預貯金などの金融資産で補えるかを評価する方向が示されています。

ここで重要なのは、「厚生年金に30年加入していないと永住が不可能になる」と直ちに読むべきではない点です。報道内容は、老後に公的扶助へ過度に依存しない生活基盤を見込めるかを、年金と資産の組み合わせで見るという趣旨に近いと考えられます。

企業実務では、社会保険の加入状況、標準報酬月額、転職時の空白期間、扶養関係の扱いがいっそう重要になります。外国人本人が制度を理解しきれないまま未納や手続き漏れを起こすと、永住申請時に過去の履歴として跳ね返ります。人事部門は在留資格の有効期限だけでなく、税・社会保険の基礎的な説明と記録管理を、定着支援の一部として組み込む必要があります。

外国人材定着を揺らす新基準の実務負担

257万人の外国人労働者が支える現場

今回の見直しは、外国人材への依存が強まる労働市場の中で起きています。厚生労働省によると、2025年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人で、届出制度が始まった2007年以降の最多を更新しました。外国人を雇用する事業所も37万1,215所に達しています。

在留資格別では、専門的・技術的分野の在留資格が86万5,588人で最も多くなりました。技能実習や特定技能だけでなく、技術・人文知識・国際業務などの専門職が、企業の採用ポートフォリオで大きな位置を占めています。製造、建設、情報サービス、宿泊、介護など、人手不足が続く領域ほど外国人材の定着は経営課題です。

出入国在留管理庁の在留外国人数統計では、2025年末の在留外国人数は412万5,395人となり、初めて400万人を超えました。在留資格別では永住者が94万7,125人で最多です。永住者はすでに日本社会の周縁ではなく、地域の生活者、納税者、労働者として大きな存在になっています。

企業側の採用意欲も高止まりしています。帝国データバンクの2026年度雇用動向調査では、正社員の採用予定がある企業は60.3%でした。新卒採用予定は36.9%、中途採用予定は52.4%で、中途人材への依存が強まっています。外国人材は、その中途採用市場や専門人材市場の一角を担っています。

国益要件に入る日本語と制度理解

報道では、国益適合要件についても基準を明確化し、日本語能力や日本の制度・ルールへの理解度を考慮する方向が示されています。これは、収入や年金のような経済的基盤だけでなく、地域社会で自立して暮らせる力を審査する流れです。

政府は近年、外国人の受入れと共生をめぐり、ルールの遵守と生活支援を同時に進める姿勢を強めています。NIRA総合研究開発機構の論点整理も、外国人労働者政策では受け入れ拡大と制度適正化を切り離せない課題として扱っています。労働力不足を補うだけでなく、生活者としての安定をどう設計するかが問われています。

日本語能力の確認は、単に試験の点数を求める問題ではありません。職場では安全衛生、評価面談、苦情処理、ハラスメント相談、配置転換の説明など、細かな意思疎通が必要です。日本語支援を本人任せにしてきた企業ほど、制度変更後に定着リスクが見えやすくなります。

とりわけ、家族帯同者がいる場合は、配偶者の就労、子どもの就学、地域での相談窓口利用なども生活安定に関わります。永住申請のためだけに日本語学習を促すのではなく、職場と地域で孤立しないためのインフラとして捉える必要があります。

企業が負う記録管理と説明責任

永住許可は本人の申請ですが、企業の人事実務と無関係ではありません。本人の職務内容、雇用契約、給与見込み、社会保険加入、納税に必要な給与情報は、企業側の管理に依存します。書類が揃わない、説明が曖昧、雇用契約と実態が違うといった問題は、申請者本人の不利益に直結します。

新基準が導入されれば、外国人社員から「自分の処遇で永住申請に届くのか」という相談が増える可能性があります。会社が許可を保証することはできませんが、給与レンジ、昇給見通し、雇用継続の考え方、職務等級を透明に示すことはできます。これは外国人社員だけでなく、日本人社員を含む全体の人事制度の信頼性にも関わります。

注意すべきは、永住申請を理由に特定の国籍の社員だけを別扱いすることです。国籍による不合理な処遇差は、採用広報や職場風土に悪影響を与えます。必要なのは、在留資格支援を福利厚生のように整備しつつ、賃金・評価制度は職務と成果に基づいて一貫させる設計です。

平均年収基準が抱える公平性と地域差

平均年収を要件化する利点は、審査基準が見えやすくなることです。申請者にとっては、どの程度の収入や年金見込みが必要なのかを早めに確認できます。行政にとっても、担当者ごとの判断のばらつきを抑えやすくなります。

一方で、平均値は実態を単純化します。国民生活基礎調査では全世帯の平均所得が575万2千円ですが、高齢者世帯は336万1千円、高齢者世帯以外は700万7千円、児童のいる世帯は857万3千円です。どの世帯像を標準とするかで、必要とされる生活基盤の見え方は大きく変わります。

地域差もあります。地方では生活費が低い一方、賃金水準も都市部より低い傾向があります。介護、農業、建設、宿泊など、地域経済を支える分野ほど賃金上昇の余力が限られます。全国一律の高い基準が強く働けば、地方で長く働いてきた人ほど永住への道が狭くなるおそれがあります。

若年層への影響も無視できません。日本企業では、入社後に経験を積みながら賃金が上がる制度がなお残っています。専門性の高い外国人でも、来日直後から全世帯平均を大きく上回るとは限りません。将来の成長可能性をどう評価するかは、審査の公平性に関わります。

制度適正化の狙い自体は理解できます。永住後に在留期間更新がなくなる以上、公的義務の履行状況や生活基盤を厳格に見ることには一定の合理性があります。ただし、優良な外国人材まで将来設計を描けなくなれば、日本で働き続ける動機を弱めます。新基準には、移行期間、例外規定、扶養家族の扱い、地域や職種の実態をどう反映するかという細かな設計が欠かせません。

企業と申請者が早期に整える準備

企業と申請者がまず確認すべきなのは、正式なガイドラインの公表時期と適用対象です。報道では10月1日の改定や2027年4月申請分からの適用が伝えられていますが、実務では最終文言がすべてです。申請予定者は、収入、住民税、年金、健康保険、雇用契約、扶養関係の書類を早めに点検する必要があります。

企業は、外国人社員を「採って終わり」にしない仕組みを整える段階に入っています。入社時の在留資格確認、社会保険の説明、日本語学習支援、キャリア面談、家族を含む生活情報の提供を、個別対応ではなく標準業務にすることが重要です。

今回の見直しは、永住許可を狭める政策であると同時に、長く日本で働く人にどの程度の生活安定を求めるのかを可視化する政策でもあります。企業は人手不足の穴埋めとしてではなく、将来の中核人材として外国人社員を処遇できているかを見直すべき局面です。

参考資料:

渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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