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女性を引き上げる仕組み不在が阻む日本企業の女性管理職登用改革

by 渡辺 由紀
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女性同士の支援不足がキャリア論になる背景

山口真由氏のキャリア論が広く読まれる理由は、華やかな経歴の裏にある挫折や孤独を、個人の失敗談ではなく職場の構造問題として考えさせる点にあります。『挫折からのキャリア論』では、弱さを開示し、互いに手を取り合うことで職場で違う振る舞いが可能になるという問題意識が示されています。

「女性が女性を引き上げる仕組みがない」という論点は、感情的な連帯の有無だけを問うものではありません。誰が後輩に機会を渡し、誰が昇進候補として推薦し、誰が失敗しても戻れる道を用意するのかという、人事制度の問題です。

日本企業では、女性活躍の議論が長く「両立支援」と「本人の意欲」に寄りがちでした。しかし管理職や役員への登用は、働き続けられるだけでは進みません。重要なのは、成長機会を配る側に女性が少ないこと、そして少数の女性リーダーに次世代育成の責任が過度に集中することです。

雇用・人材戦略の視点で見れば、これは採用広報の問題でもあります。若手や中途候補者は、制度名よりも実際に誰が昇進し、誰が重要案件を任され、どのような働き方で成果を出しているかを見ています。女性が上位職に少ない組織では、入社時点の期待値と入社後に見える昇進可能性がずれやすく、優秀層の離職や応募回避につながります。

管理職登用を止めるパイプラインの細さ

数字が示す日本企業の昇進停滞

女性登用は改善しているように見えますが、意思決定層に近づくほど壁は厚くなります。帝国データバンクの2025年調査では、企業の女性管理職割合は平均11.1%で過去最高となりました。それでも政府が掲げてきた30%水準には遠く、女性管理職30%に該当する企業の割合も11.9%にとどまっています。

役員層でも同じ構図があります。内閣府によると、2025年の全上場企業における女性役員割合は14.0%、東証プライム市場上場企業では17.7%でした。政府は2030年までにプライム市場上場企業の女性役員比率を30%以上にする目標を掲げていますが、現状はまだ通過点です。

さらに、帝国データバンクの全国「女性社長」分析では、2025年10月時点の女性社長比率は8.6%でした。5年連続で上昇し過去最高ではあるものの、1割に届いていません。管理職、役員、社長という階段を上るにつれ、女性の存在感が薄くなる構造が残っています。

国際比較でも、日本の課題は明確です。世界経済フォーラムの「Global Gender Gap Report 2025」では、日本は148カ国中118位でした。経済参加のスコアは前年の56.8%から61.3%に上昇し、女性の労働参加や管理職・議員等の比率も改善しました。それでも政治参画は低下し、経済分野でも上位国との差は大きいままです。

ロールモデル不足が生む挑戦機会の欠落

内閣府の調査紹介では、上場企業が女性役員の社内登用を進めるうえで、上位職のロールモデルが少ないことや、ライフイベント前の女性社員が管理職登用に漠然とした不安を抱くことが課題として挙げられています。ここでいうロールモデル不足は、「憧れの先輩がいない」という単純な話ではありません。

ロールモデルが少ない組織では、昇進後の働き方が見えません。管理職になった後にどんな裁量があり、育児や介護とどう両立し、失敗したときに誰が支えるのかが見えにくくなります。その不透明さは、昇進意欲の低さとして表面化します。

山口氏はZEN大学のインタビューで、財務省時代にもジェンダーにおけるガラスの天井や壁が確実にあったと振り返っています。勉強では男性に負けたことがなかった人でも、職場の評価軸、長時間労働、暗黙の昇進ルールに直面すれば、努力だけでは突破しにくい壁があります。

この問題を個人の自信不足として片づけると、企業は同じ停滞を繰り返します。女性が昇進を望まないように見える場合でも、その背景には挑戦機会の不足、評価基準の不透明さ、家庭責任の偏り、孤立への不安が絡み合っています。人事が見るべきなのは、意欲の有無ではなく、意欲が生まれる条件が配られているかです。

とくに初期管理職への一段目は重要です。McKinseyとLeanIn.Orgは、管理職への最初の昇進で女性が男性より少なくなる「壊れた一段目」が、その後の上位職の男女差を固定化すると指摘しています。2025年調査では、男性100人が管理職に昇進するのに対し、女性は93人でした。小さく見える差でも、階層を重ねるほど候補者プールの偏りは大きくなります。

メンターよりスポンサーが必要な人材戦略

助言ではなく機会を配る仕組み

女性活躍の施策として、メンター制度やロールモデル紹介は広く知られています。厚生労働省も、女性社員の活躍を推進する有効な方法として、メンター制度、ロールモデル紹介、地域ネットワーク参加のマニュアルや事例集を示しています。これらは、孤立を防ぎ、キャリアの見通しを持つうえで重要です。

ただし、登用を進めるには助言だけでは足りません。Catalystは、メンターがキャリア上の助言を提供する存在であるのに対し、スポンサーは自らの影響力を使って他者の前進を後押しする存在だと整理しています。スポンサーシップは、会議で名前を出す、重要プロジェクトに推薦する、昇進候補として擁護するという行動を含みます。

McKinseyとLeanIn.Orgの「Women in the Workplace 2025」も、女性は男性と同じようにキャリアへ意欲を持っていても、スポンサーや上司の後押しが少ないため、昇進意欲が弱まると分析しています。同調査では、スポンサーがいる従業員はそうでない従業員に比べて昇進率が高く、男性は2.0倍、女性は1.7倍でした。

この差は、日本企業にも示唆を持ちます。制度上は公平な評価を掲げていても、誰に大型案件を任せるか、誰を経営会議に同席させるか、誰を異動で鍛えるかは、日々の管理職判断に左右されます。女性がその非公式な推薦網に入れなければ、能力があっても実績を作る機会が不足します。

女性だけに背負わせない制度設計

「女性が女性を引き上げる」という言葉には注意も必要です。女性管理職が少ない組織で、女性だけに後輩支援を担わせると、少数者に過剰な負担が集中します。管理職としての通常業務に加え、採用広報、相談対応、研修登壇、ロールモデル役を背負わされれば、本人の評価対象外の仕事が増えます。

本来、女性の登用は全管理職の責任です。男性上司も女性部下のスポンサーになり、経営陣も後継者候補に女性を含める必要があります。内閣府の取組事例でも、部長や室長、店長に対して、後継者候補に男性と女性を含めてもらうことが、女性登用や育成意識の醸成につながる施策として紹介されています。

スポンサー制度を実効性あるものにするには、誰を推薦したか、推薦後にどんな経験を与えたか、昇進候補者の男女比がどう変化したかを記録する必要があります。単発の面談や研修だけでは、登用のパイプラインは太くなりません。機会配分そのものを人事データとして扱うことが不可欠です。

人材戦略の観点では、女性同士のネットワークは横の安心感を作り、スポンサー制度は縦の機会を作ります。どちらか一方では不十分です。横のつながりだけでは昇進の推薦に届かず、縦の支援だけでは孤立や心理的負担が残ります。日本企業に足りないのは、女性の善意ではなく、横と縦をつなぐ制度設計です。

この制度設計では、スポンサーを「相性の良い上司」に任せないことが大切です。候補者ごとに必要な経験を棚卸しし、事業責任、部門横断プロジェクト、部下育成、海外・新規事業、危機対応などの機会を計画的に配分します。推薦者が複数いれば、一人の上司の好みや思い込みに左右されにくくなります。スポンサーシップは温情ではなく、後継者育成のポートフォリオ管理です。

公表義務拡大で問われる実効性ある登用改革

2026年4月から改正女性活躍推進法の施行により、常時雇用101人以上の一般事業主に対し、男女間賃金差異の情報公表が拡大され、女性管理職比率の公表も新たに義務付けられました。厚労省は、女性労働者割合、継続勤務年数、労働時間、女性管理職比率などの状況把握と課題分析を行い、行動計画を策定して効果測定につなげる流れを示しています。

この制度変更は、人事部門にとって単なる開示対応ではありません。女性管理職比率を公表すれば、採用候補者、投資家、取引先、従業員が比較できるようになります。数字が低い企業は、なぜ低いのか、いつまでにどこまで上げるのか、どの職種や階層に詰まりがあるのかを説明する必要があります。

ただし、数字を上げるための短期登用にはリスクがあります。準備不足のまま少数の女性を抜てきし、十分な権限や支援を与えなければ、本人に過剰な負担がかかり、組織内に「やはり難しい」という誤った学習が残ります。女性登用は人数目標と同時に、経験配分、評価者訓練、働き方の柔軟性、健康課題への配慮を組み合わせる必要があります。

もう一つのリスクは、開示が大企業中心に進み、中小企業の対応が遅れることです。帝国データバンクの調査では、男性育休取得率も企業規模が大きいほど高く、人的余裕のなさが中小企業の制約として示されています。女性管理職比率も同じで、代替要員や柔軟な配置を設計できない企業ほど、ライフイベントを理由に候補者を早くから絞り込んでしまいます。

だからこそ、管理職登用は「女性向け施策」ではなく、労働力不足時代の人材ポートフォリオ改革として扱うべきです。採用難が続くなかで、半分の人材プールを十分に活用できない企業は、将来の管理職不足を自ら深刻にしています。女性を引き上げる仕組みは、公平性だけでなく、事業継続の基盤です。

実務上は、女性管理職比率の分母と分子を正しく定義することも欠かせません。厚労省は、女性活躍推進法における管理職を「課長級」と「課長級より上位の役職」にある労働者の合計と説明しています。企業独自の役職名が多い場合、どこまでを管理職に含めるかが曖昧になりがちです。開示の前に職務権限、部下数、評価責任を整理しなければ、数字だけが独り歩きします。

開示後に問われるのは、比率そのものより改善の道筋です。女性候補者が少ない部署、離職が多い年次、昇進辞退が起きやすい職種、育休復帰後に経験機会が減る職場を特定し、管理職の行動まで変えられるかが焦点になります。制度変更をきっかけに、企業は登用のボトルネックを可視化する段階へ入っています。

その際、平均値だけを見ると問題を見落とします。営業、開発、管理部門、店舗、地域拠点などで昇進機会は異なります。部門別の候補者数と経験機会を追うことで、登用改革は初めて現場の改善課題になります。

人事が明日から点検すべき三つの設計

第一に、昇進候補者リストの入口を点検することです。課長候補、部長候補、役員候補の各段階で、女性がどの程度含まれているかを見ます。候補者が少ない場合は、能力不足ではなく、過去にどんな経験機会が配られてこなかったのかを確認する必要があります。

第二に、スポンサー行動を管理職評価へ入れることです。面談回数ではなく、挑戦機会の提供、会議での推薦、後継者候補の育成、昇進後の支援を評価します。女性上司だけに担わせず、全管理職の職務として明確にします。

第三に、ロールモデルを成功者像に限定しないことです。山口氏の著書が示すように、弱さや失敗を開示できる先輩は、後輩にとって現実的な道標になります。完璧な女性リーダー像を掲げるほど、若手は自分には無理だと感じます。必要なのは、失敗しても職場に残り、学び直し、再挑戦できるキャリアの設計です。

女性が女性を引き上げるシステムがないという問題は、女性同士の関係性だけでは解けません。企業が機会を可視化し、推薦を制度化し、管理職の責任として次世代を育てる仕組みを作れるかにかかっています。登用改革は、善意のネットワークから実務の人材戦略へ移す段階に入っています。

参考資料:

渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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