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ライザップ建設転身は成功するか現場職移動1%の壁と人材再配置

by 渡辺 由紀
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RIZAP建設転身が映す労働市場の転換点

RIZAPグループが社員最大500人を建設人材に振り向ける計画は、単なる異業種参入ではありません。AIで事務系業務を効率化し、浮いた時間と人材を人手不足の現場へ移すという、企業内労働移動の実験です。

焦点は、同社の育成メソッドが建設の技能形成に通じるかだけではありません。事務職から現場職への移動が日本では1%前後にとどまる中、本人の納得、処遇、安全、キャリアの見通しをどう設計できるかが問われます。

建設業の人手不足は、若者の採用難や高齢化だけで説明できない段階に入っています。AI時代の余剰人材論が広がるほど、企業は「どこへ動かすか」ではなく「移りたい仕事にできるか」を問われる局面です。

チョコザップ拡大を外販する建設事業の勝ち筋

三つの直で縮めた費用と工期

RIZAP建設の出発点は、コンビニジム「chocoZAP」の急拡大で生まれた店舗開発ノウハウです。RIZAPは2023年1月24日から2024年1月23日までの1年間に1,030店舗を開き、そのうち24時間営業の1,020店舗がギネス世界記録に認定されたと発表しました。

同社が強調するのは、直取引、直雇用、直発注の三つです。製造工場との直接取引で中間コストを抑え、現場人材を社内で育て、工事内容に応じて職人や施工会社へ直接発注するという設計です。従来型の多重下請けを前提にしないため、店舗内装のように仕様を標準化しやすい領域では、価格と工期を同時に改善しやすくなります。

RIZAP側の発表では、過去のchocoZAP出店実績との比較で、通常費用から25〜30%削減、工期は通常の2倍速を実現したとしています。さらに2025年10月から2026年3月までの半年間で、外部企業向けに186件を施工した実績も示しました。建設業への参入は、ゼロから現場に飛び込むというより、標準化された店舗施工の「型」を外販する動きです。

この点は重要です。一般の建設技能は、現場ごとの条件差が大きく、熟練の暗黙知も多い仕事です。一方、店舗内装、什器、設備のような反復性の高い工事では、作業手順、調達、品質基準を標準化しやすい面があります。RIZAPの成功可能性は、建設業全体を変えるかではなく、まず反復可能な店舗開発に絞って勝ち筋を出せるかにかかっています。

RIZAPグループの2026年3月期決算では、売上収益は167,257百万円、営業利益は11,086百万円でした。主力のchocoZAPで出店抑制や広告費最適化、店舗運営の内製化とDX化を進め、1店舗あたりの損益分岐点が低下したことも説明されています。つまり建設参入は、赤字補填の苦肉策というより、店舗運営の効率化で得た知見を別市場に持ち出す成長投資と位置づけられます。

AI効率化を人材再配置へつなぐ論理

同社はグループ全社でAI活用を進め、2025年10月時点と2026年3月時点の比較で業務効率が20%以上向上したとしています。その成果で生まれた人的リソースに、技能・資格取得の支援を行い、最大500人をRIZAP建設へシフトするという構図です。

この説明には、企業の人材戦略として新しさがあります。これまでDXやAI導入は、人員削減や事務処理の短縮として語られがちでした。RIZAPの構想は、効率化によって消える仕事を、採用困難な現場職へつなぐ点に特徴があります。

ただし、AI効率化で生まれた「余力」と、建設現場で即戦力になる「技能」は別物です。内装の基礎作業、資材搬入、壁紙、軽量鉄骨、電気工事補助などは段階的に学べても、安全管理、工程理解、品質責任は短期研修だけでは身につきません。資格取得支援を掲げるだけでなく、どの作業を何カ月で任せ、どの水準から一人前とみなすのかを可視化する必要があります。

報道では、すでに約50人の異動が決まったとされ、物流部門や経営推進など幅広い部門から人材を移す方針も伝えられています。初期段階では、簡単な内装作業から始め、段階的に専門技能へ進む設計が現実的です。逆に言えば、この段階設計が曖昧なまま500人規模へ広げると、本人の不安と現場の教育負担が同時に膨らみます。

RIZAPが持つ強みは、短期集中型の育成、進捗管理、行動変容を支えるメソッドです。パーソナルトレーニングで培った「目標を分解し、日々の行動に落とす」仕組みは、技能教育にも応用できます。しかし建設では、成果が本人の努力だけで完結しません。現場の危険予知、協力会社との連携、天候や資材納期の変動に対応する力も必要です。

この事業が成功する条件は、RIZAP流の育成を建設技能の世界に押し込むことではありません。店舗施工という限定領域で、未経験者が安全に参加できる作業を切り出し、ベテランの監督とデジタル管理を組み合わせることです。人材再配置の成否は、気合ではなく仕事の再設計で決まります。

現場職移動1%の壁と建設人材不足の深層

事務職から現場職へ動かない構造

RIZAPの取り組みが注目される理由は、日本の労働市場で事務職から現場職への大規模移動が起きていないからです。リクルートワークス研究所の全国就業実態パネル調査を用いた分析では、2025年の1年間に前年の事務系職から現場職へ移った人は、全就業者の1.0%でした。逆方向の現場職から事務系職への移動は1.1%で、むしろわずかに多い結果です。

同分析は、企業内の配置転換を含む職種間移動を見ています。転職者に限らないため、日本企業の内部労働市場の実態を映しやすい点が特徴です。それでも事務系職から現場職への移動は過去からおおむね1%前後で、構造的に大きな潮流になっていません。

厚生労働省の雇用動向調査を参照した同分析でも、ホワイトカラーからブルーカラーへの移動者は10.1万人、逆方向は18.9万人でした。転職者に占めるホワイトカラーからブルーカラーへの移動割合は2.3%にとどまります。AIで事務職が余るという議論があっても、働き手が自然に現場へ流れるとは言えません。

一方で、現場職の魅力がまったくないわけではありません。レバレジーズの「ブルーカラー職のキャリア実態調査」では、現在ブルーカラー職に従事する724人のうち、20.4%がホワイトカラーからの転職者でした。選んだ理由では「手に職がつくから」が13.7%、「体を動かす仕事が好きだから」が13.5%、「収入が良いから」が13.3%と続きます。

この二つの調査は矛盾しません。現場職の中には、ホワイトカラーから移った人が一定数います。しかし労働市場全体で見ると、その移動は限定的です。個人の転職事例は増えて見えても、構造を変えるほどの大きな流れにはなっていないということです。

賃金上昇より重い身体負荷と生活設計

建設業側の需要は強いままです。厚生労働省の建設雇用改善計画は、建設業の就業者に占める若年層の割合が2024年に11.7%、60歳以上が25.8%だったと示しています。女性の割合は18.2%まで増えていますが、技能労働者に限ると女性比率は低く、担い手確保はなお途上です。

働き方改革も圧力になります。建設業には2024年4月以降、時間外労働の上限規制が適用されています。原則は月45時間以内、年360時間以内で、臨時的な場合でも年720時間までです。長時間労働に依存して工程を回す余地が狭まるため、工期設計、発注者との価格交渉、省人化投資が欠かせません。

経済産業省の2040年就業構造推計では、AIやロボット活用、リスキリングが進んでも、職種間のミスマッチが残る可能性が示されています。2040年には事務職で約437万人の余剰が生じる一方、現場人材は約260万人不足する可能性があるという整理です。RIZAPの動きは、この需給ギャップを企業単位で先取りする試みと読めます。

問題は、需要があるだけでは人は動かないことです。レバレジーズ調査では、ブルーカラー職で不満に感じる点として「給与水準が低い」が30.7%、「体力的にきつい」が23.1%で上位でした。働く前とのネガティブなギャップでは「給与が想定より低かった」が39.9%で最多です。手に職がつく安心感と、体力・収入面の不安が同居しています。

RIZAPは「健康、快活、給与アップ」を新しい3Kとして掲げています。これは採用広報としてわかりやすい半面、現場の実感に届くには制度の裏付けが必要です。事務職より給与が上がるのか、昇給は技能評価と連動するのか、体力負荷を下げる工具や工程管理に投資するのか。スローガンだけでは、1%の壁は越えられません。

もう一つの壁は、本人の職業アイデンティティです。事務、販売、接客、物流、経営企画などで積んできた経験を、建設現場でどう価値化できるのかが見えなければ、転身は「キャリアのやり直し」に見えます。逆に、顧客対応、店舗運営、工程調整、品質チェックなどの経験が現場で評価される設計なら、移動の心理的負担は下がります。

成功モデル化を阻む安全・定着・納得感の課題

RIZAP建設が成功モデルになるには、三つのリスクを先に潰す必要があります。第一は安全です。建設現場では、慣れていない作業者ほど危険を見落としやすくなります。軽作業から始めるとしても、工具、脚立、搬入、電気、粉じん、熱中症など、身体を使う仕事には固有のリスクがあります。未経験者を増やすほど、教育担当者と監督者の負荷も増えます。

第二は定着です。ブルーカラー転身は、最初の数カ月で適性が見えやすい一方、体力的な疲労や生活リズムの変化が離脱要因になります。RIZAPが500人という数を追うなら、採用人数ではなく、半年後、1年後、資格取得後の定着率を追うべきです。教育を受けた人が辞めると、技能投資は会社にも本人にも損失になります。

第三は納得感です。会社都合の配置転換に見えると、人的資本経営とは逆方向のメッセージになります。本人の希望、処遇、将来の選択肢、戻れる道、管理職への展望を示す必要があります。特に職種転換は、勤務地や勤務時間だけでなく、身体負荷と社会的評価まで変わるため、通常の異動より説明責任が重い領域です。

RIZAPにとって追い風は、chocoZAPが2026年7月17日に国内2,005店舗へ到達し、店舗開発の需要と知見を持ち続けている点です。施工の標準化、無人運営、AIカメラ、IoT管理など、同社は「人の仕事を減らす技術」と「人が担う現場作業」を同時に経験してきました。

ただし、外販事業として広げるほど、顧客企業の仕様、現場条件、品質責任は複雑になります。chocoZAPで通用した水準が、オフィス、美容室、クリニックなど別業態でも通用するとは限りません。建設業の信用は、安さや速さだけでなく、事故を起こさないこと、追加費用を膨らませないこと、引き渡し後の不具合に対応することで積み上がります。

企業が人材再配置で確認すべき実務指標

RIZAPの挑戦は、AI時代の人材再配置を考える企業に重要な示唆を与えます。見るべき指標は、何人を動かしたかではありません。未経験者がどの技能に何日で到達したか、資格取得率、現場事故率、施工不良率、1年定着率、転身後の賃金上昇率、本人満足度を並べて検証することです。

投資家や取引先は、RIZAP建設の受注件数と売上だけでなく、教育コストを含めた採算を確認する必要があります。186件の施工実績は入口の証明ですが、500人規模の育成は固定費を伴います。外販案件が継続的に増えなければ、人材再配置は余剰吸収策に見えてしまいます。

働き手にとっては、現場職がAIに代替されにくい安定職になる可能性があります。しかし、安定は自動的に手に入りません。技能が社外でも通用する形で記録され、資格や職務経験として積み上がることが条件です。

RIZAP建設の成否は、ブルーカラー転身のイメージを変えるだけでなく、日本企業がAIで生まれた時間をどう使うかを映す試金石です。事務職を現場へ動かすのではなく、現場職を選びたくなる仕事に変えられるか。そこに、この実験の本質があります。

参考資料:

渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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