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女性の働く意欲を阻む最大の壁 賃金と職場家庭の二重負担を読む

by 渡辺 由紀
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女性就業3082万人と報酬負担の非対称

女性が働くこと自体は、日本で着実に広がっています。労働政策研究・研修機構(JILPT)が紹介した総務省の2024年平均結果では、女性の就業者数は3,082万人に達しました。一方で、就業者が増えていることと、働く意欲が高まっていることは同じではありません。公開調査を横断すると、女性の意欲を削いでいるのは単なる忙しさではなく、「頑張っても報われにくい」と感じさせる構造です。

単独の不満項目として最も目立つのは給与や待遇です。ただし、賃金の問題だけで説明すると本質を外します。昇進の見通しの弱さ、家事や育児・介護の偏り、年収の壁による就業調整が重なることで、仕事への前向きさが削られていくからです。この記事では、複数の公開データをもとに、女性の働く意欲を阻む最大の壁を「報酬と負担の非対称性」という視点から読み解きます。

最大の壁の正体

給与不満に集まる不公平感

公開調査を比べると、女性の不満はまず賃金に集中しています。ベンチャーサポートコンサルティングの2024年調査では、現在の職場への不満の1位は「給与が低い」で43.3%でした。AOKIの2025年調査でも、キャリア上の「ガラスの天井」を感じた女性が、その具体的な場面として最も多く挙げたのは「賃金・待遇」の41.4%です。意欲を保つには、努力と見返りの接続が必要ですが、そこが弱いと挑戦の意味が見えにくくなります。

この感覚は印象論ではありません。JILPTが2025年5月にまとめた厚生労働省「2024年賃金構造基本統計調査」の紹介では、一般労働者の月額賃金は男性を100とした場合に女性が75.8でした。女性の月額賃金は27万5,300円、男性は36万3,100円です。格差は縮小傾向でも、日々の手取りや将来賃金の見通しでみれば、なお大きい差があります。働く意欲を削ぐ最大の起点が賃金にあるのは自然です。

昇進を止める見えない天井

ただし、賃金不満だけなら転職や資格取得で解ける話になりやすいです。実際には、それより深い層に「上に行ける気がしない」という壁があります。AOKI調査では55.4%がキャリアの中でガラスの天井を感じたと答え、管理職を目指したい人は37.2%にとどまりました。責任の重さへのプレッシャーや、リーダー適性への不安などの心理的障壁を挙げた人は58.6%に上ります。

ベンチャーサポートコンサルティングの調査でも、今後のキャリア形成は「現状維持」が55.3%で最多で、「昇進を目指す」は7.4%にすぎません。背景には、個人の慎重さだけでなく、昇進後の報酬や支援が十分に見えない職場構造があります。JILPTが2025年8・9月号で紹介した内閣府白書でも、管理的職業従事者に占める女性割合は2022年時点で15.3%でした。上位ポストの女性比率が低い環境では、努力の先に自分の姿を描きにくくなります。

職場外負担との重なり

家事・育児・介護の偏在

働く意欲を考えるとき、職場の制度だけを見ても不十分です。内閣府「令和5年版男女共同参画白書」の概要版では、6歳未満の子どもを持つ共働き世帯でも、2021年時点で家事関連時間の77.4%を妻が担っていると示されました。夫婦ともに働いていても、家庭内の時間配分はなお大きく偏っています。これは、仕事で新しい役割を引き受ける余力を女性側から奪いやすい構造です。

その重さは、両立の主観的な苦しさにも表れています。Colorkrewの2025年調査では、育児・介護と仕事の両立が「あまりうまくいっていない」女性が26.0%、「全くうまくいっていない」が6.4%でした。さらに、両立を難しくする要因のトップは「家事や育児・介護の負荷」の71.5%です。意欲が弱いのではなく、意欲を発揮する前に使える時間と注意力が削られているとみるべきです。

年収の壁と非正規比率

もう一つの大きな壁が、制度が就業意欲を抑える場面です。野村総合研究所の2025年調査では、就業調整をしている有配偶パート女性の67.4%が、年収の壁の引上げや廃止が実現すれば「今より働く時間を増やして年収を増やしたい」と答えました。働かないのではなく、制度上の不利益を避けるために働き方を抑えている人が多いことを示しています。

厚生労働省「令和6年版 働く女性の実情」でも、役員を除く女性雇用者のうち、2024年の正規は1,299万人、非正規は1,444万人でした。割合では正規47.4%、非正規52.6%です。正規が10年連続で増えているのは前進ですが、なお過半が非正規という現実は重いです。低賃金への不満、昇進機会の乏しさ、年収の壁による時間制約がつながると、女性の働く意欲は個人の問題ではなく、雇用構造の問題として理解する必要があります。

年収の壁と賃金評価改革の三焦点

「女性の働く意欲を阻む最大の壁」を一言でいえば、公開データから見えるのは賃金の低さそのものより、賃金、評価、時間、家庭負担が連動して報われにくさを生む構造です。未婚か既婚か、正規か非正規か、子どもや介護の有無で事情は変わるため、単純に「女性は昇進を望まない」と読むのは誤りです。現状維持志向が強いのは、挑戦心の欠如というより、挑戦のコストが高すぎるという読み方のほうが実態に近いです。

今後の焦点は三つあります。第一に、年収の壁の見直しや社会保険制度の整理で、働く時間を増やすと損をする感覚を減らせるかです。第二に、賃金格差の縮小だけでなく、昇進後の支援や評価基準の透明化を進められるかです。第三に、育児や介護を女性側の前提責任にしない働き方へ移れるかです。この三つが動かなければ、就業者数が増えても、働く意欲の底上げにはつながりにくいです。

報酬と将来像が見合わない最大の壁

複数の公開調査を重ねると、女性の働く意欲を阻む最大の壁は、単独の悩みではありません。表面に出やすいのは給与や待遇への不満ですが、その背後では、昇進の見えにくさ、家事・育児・介護の偏在、年収の壁、非正規比率の高さがつながっています。要するに、負担は大きいのに、報酬と将来像が見合いにくいことが最大の壁です。

この論点は、女性支援の話にとどまりません。人手不足が続く中で、意欲のある人が能力を十分に使えない構造を放置することは、企業にも経済全体にも損失です。職場の制度、賃金設計、家庭内分担を一体で見直せるかどうかが、次の争点になります。

参考資料:

渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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