東大のジェンダー改革から考える職場の男女格差問題
林香里氏が進める東大改革と職場格差
「男女の扱いが違う職場では働けない」。こうした声を上げて行動に移すことは、今でも決して容易ではありません。しかし、日本の最高学府である東京大学では、まさにその課題に正面から取り組む改革が進んでいます。
東京大学の理事・副学長としてダイバーシティ推進を担う林香里氏は、メディア研究者としての知見を活かしながら、大学のジェンダー改革をリードしてきました。本記事では、東大の取り組みを起点に、日本の職場における男女格差の現状と課題を考察します。
東京大学のジェンダー改革の現在地
理事の過半数が女性に
2021年4月、東京大学の新体制が発足しました。総長と理事・副学長を含めた9人のうち5人が女性となり、国立総合大学として初めてリーダー層の過半数を女性が占める体制が実現しています。
林香里氏はこの体制で国際・ダイバーシティ担当の理事・副学長に就任しました。ロイター通信の記者出身で、メディアとジェンダーの研究を専門とする林氏は、「東大が男女比の偏りを『日本社会と同じだからしかたない』と納得するべきではない」という信念のもと、組織変革を推し進めています。
依然として残る課題
しかし、数字を見ると課題の大きさも明らかです。2025年度の東大合格者の男女比は依然として8対2で、特に理科一類の女子比率は8.5%にとどまっています。最も高い文科三類でも39.2%です。
教員側では改善が進んでおり、女性教員の割合は2015年の5.5%から2024年には10.5%へと倍増しました。東大は2027年度までに着任する教授・准教授約1,200名のうち約300名を女性とする目標を掲げています。一方、新入生の約7割が男女比の偏りを「問題だ」と認識するようになっており、意識面での変化も見られます。
「東大アウェー」が映し出すもの
外から見えた組織の構造的課題
林香里氏のキャリアは、まさに「アウェー」の連続でした。ロイター通信という国際メディアでの経験を経て学術界に転じ、東大の理事に就任するまでの道のりで、組織における男女の扱いの違いを身をもって経験してきたとされています。
こうした「外部者」の視点は、組織の問題を可視化する上で重要な役割を果たします。内部にいると当たり前に見えてしまう慣行や制度の歪みを、客観的に捉えることができるからです。林氏が東大で推進する改革も、この「アウェー」の視点がベースにあります。
地方の女子学生が直面する「二重の壁」
東大のジェンダー問題は、入試の数字だけでは語れません。その背景には、地方の女子学生が直面する構造的な障壁があります。「女の子なんだから地元にいなさい」という親の意識は、今も多くの地域で根強く残っています。
データでもこの傾向は裏付けられています。大学進学率の男女差は44都道府県で男性が女性を上回り、最大で16ポイント以上の差がある県もあります。保護者が子どもに期待する将来の年収も、男子の平均772万円に対し女子は634万円と、約140万円の開きがあります。進路選択の段階から、無意識のジェンダーバイアスが働いているのです。
日本の研究・労働現場の男女格差
女性研究者の割合はOECD最低水準
日本の研究者に占める女性の割合は17.5%で、OECD諸国の中で最低水準にあります。分野別に見ると、人文科学や保健分野では比較的高いものの、工学や理学では極めて低い状況が続いています。
政府は2025年度までに、理学系20%、工学系15%、農学系30%などの女性研究者採用目標を設定してきました。教授等の上位職については早期に20%、2025年度までに23%という目標も掲げられていますが、達成は容易ではありません。
職場の「居心地の悪さ」をどう変えるか
林香里氏がBusiness Insider Japanのインタビューで語った「居心地の悪さの壊し方」は、大学に限らず多くの職場に通じるテーマです。少数派であることの心理的負担、暗黙の了解で排除される意思決定、キャリア形成の機会の不平等。これらは多くの組織で女性が経験している問題です。
東大の事例が示すのは、トップの意思決定層に女性が入ることで「数のパワー」が生まれ、組織文化そのものが変わり始めるという事実です。理事の半数以上を女性にしたことで、会議の議論の質が変わり、これまで見過ごされてきた課題が可視化されるようになったと報告されています。
2026年度女性枠と実質参画の課題
東大のジェンダー改革は日本の大学の中では先進的ですが、それでも道半ばです。京都大学や大阪大学も2026年度入試から特別選抜に女性枠を設ける動きがあり、大学全体でジェンダーバランスの改善に向けた機運は高まっています。
ただし、数値目標の達成だけでは本質的な解決にはなりません。重要なのは、女性が「いる」だけでなく、意思決定に実質的に参画できる環境を整えることです。また、大学での変革が社会全体に波及するには、企業や地域社会を含めた包括的なアプローチが必要です。
小島慶子氏のような発信者が、メディアを通じてジェンダー問題を議論の俎上に載せ続けることの意義は大きいです。元TBSアナウンサーとして、そして東京大学大学院の客員研究員として、メディアと学術の両面からジェンダー平等の重要性を伝える活動を続けています。
東大改革に見る職場格差是正の条件
東京大学のジェンダー改革は、日本の職場における男女格差問題の縮図です。リーダー層の多様化、地方の女子学生への支援、組織文化の変革。これらは大学だけでなく、あらゆる職場で取り組むべきテーマです。
「男女の扱いが違う職場では働けない」という声に応えるためには、個人の努力だけでなく、組織のトップが率先して構造を変える覚悟が求められます。自分の職場のジェンダーバランスを見直すきっかけとして、東大の取り組みを参考にしてみてはいかがでしょうか。
参考資料:
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