中国EVが相次ぎ値上げ、原材料高騰が直撃
シャオミSU7とBYDに広がる中国EV値上げ
中国の電気自動車(EV)市場に異変が起きています。これまで激しい価格競争を繰り広げてきた中国EV各社が、一転して値上げに踏み切り始めました。小米(シャオミ)はEVセダン「SU7」のモデルチェンジ版で価格を引き上げ、比亜迪(BYD)をはじめとする他社も追随しています。
背景にあるのは、電池材料であるリチウムと車載向けDRAMの価格高騰です。さらに、ホルムズ海峡の事実上の封鎖によりガソリン価格が急騰し、本来ならEV普及の追い風となるはずの状況ですが、原材料コストの上昇がそのメリットを帳消しにしています。本記事では、中国EV市場の値上げの実態とその構造的な要因を解説します。
中国EV各社が相次ぐ値上げに転じた背景
シャオミSU7が最大1万4000元の値上げ
シャオミは2026年4月発売予定のEVセダン「SU7」マイナーチェンジ版で、1万〜1万4,000元(約20万〜30万円)の値上げを実施しました。運転支援機能の強化や航続距離の延長といった性能向上を伴うものの、価格引き上げの主因は原材料コストの上昇にあります。
シャオミは2024年に「SU7」で中国EV市場に参入し、発売からわずか27分で5万台の受注を獲得するなど爆発的な人気を集めました。2026年にはさらに4車種の新モデル投入を計画しており、2027年には欧州市場への進出も視野に入れています。しかし、原材料高によるコスト増は同社の積極的な拡大戦略に水を差す格好となっています。
BYDも値下げ路線から一転
中国EV最大手のBYDは、2024年から2025年にかけて繰り返し値下げキャンペーンを実施し、価格競争を主導してきました。2025年5月には22車種を対象とした大幅値下げを行い、競合他社の追随を招くほどでした。
しかし2026年に入り、原材料コストの上昇を受けて値上げに転じています。中国当局も2026年1月に主要な新エネルギー車メーカーを集め、無秩序な価格競争を避けるよう呼びかけており、業界全体が「安さで勝負」する段階から脱却しつつあります。
値上げを引き起こす二重のコスト圧力
リチウム価格の反転上昇
EV用バッテリーの主要原材料であるリチウムの価格が再び上昇局面に入っています。ジェトロの報告によると、2026年のアジアにおける炭酸リチウムのCIF価格は1トンあたり1万327ドルに達しています。中国の炭酸リチウム先物も一時17万5,000元の高値をつけました。
リチウム価格は2022年に歴史的な高騰を記録した後、2023〜2024年にかけて大幅に下落していました。しかし、世界のEV販売台数が2025年に前年比23.9%増、2026年にも14.7%増と堅調な成長を続けるなか、需要の拡大が価格を押し上げています。MIT Technology Reviewも「2026年はリチウムに注目すべき年」と指摘しており、直接リチウム抽出(DLE)技術の商業化が進む転換点としても注目されています。
車載DRAMの異常な価格高騰
もう一つの大きなコスト要因が、車載向けDRAMの価格高騰です。セミコンポータルの報告によると、2026年第1四半期のDRAM価格は前四半期比で90〜100%上昇し、過去最高の上昇率を記録しました。
この異常な高騰の主因は、AIサーバー向けの需要爆発です。OpenAIの「スターゲート」計画をはじめとするAIインフラ投資が急拡大するなか、メモリメーカーは利益率の高いAIサーバー向けに生産リソースを優先的に配分しています。その結果、車載用やスマートフォン向けのDRAM供給が逼迫し、価格が急騰しているのです。
現代のEVは高度な運転支援システムやインフォテインメントシステムを搭載しており、車1台あたりのDRAM使用量は増加の一途をたどっています。S&Pグローバル・レーティングは、メモリの供給逼迫が2026年中は続き、正常化は2027〜2028年頃になるとの見通しを示しています。
ガソリン170円と日本市場への波及
ガソリン高はEVの追い風にならないのか
通常、ガソリン価格の上昇はEVの価格競争力を高める要因となります。2026年3月現在、ホルムズ海峡の事実上の封鎖により原油価格が急騰し、日本でもガソリン価格が170円前後に上昇、最悪のシナリオでは300円超になるとの試算も出ています。
しかし中国EV各社にとって、このガソリン高の追い風は原材料コストの上昇で帳消しになっています。リチウムとDRAMの二重の価格高騰がEVの製造コストを押し上げ、値上げ分を消費者に転嫁せざるを得ない状況です。EV各社の収益性は厳しさを増しており、価格競争力の維持と利益確保の両立が大きな課題となっています。
日本市場への影響
中国EVメーカーの値上げは、日本市場にも間接的な影響を及ぼす可能性があります。BYDは日本市場でEVを積極展開しており、グローバルな原材料高騰は日本向けモデルの価格にも反映される見通しです。一方で、日本の自動車メーカーにとっては、中国EVの価格競争力が低下することで競争環境が変化する側面もあります。
リチウムと車載DRAM高騰が握るEV価格動向
中国EV市場は、シャオミやBYDをはじめとする各社が相次いで値上げに転じるという転換点を迎えています。リチウム価格の反転上昇と、AI需要に起因する車載DRAMの異常な高騰が、EV製造コストを二重に押し上げているのが主な要因です。
ホルムズ海峡封鎖によるガソリン高はEV普及の追い風となるはずですが、原材料コストの上昇がそのメリットを相殺しています。今後は、バッテリー技術の進化やサプライチェーンの多様化がコスト低減のカギとなります。消費者にとっては、EV購入のタイミングや車種選択において、価格動向を注視する必要がある局面です。
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