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ディスコの社内通貨Willが示す静かな退職対策

by 渡辺 由紀
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静かな退職44.5%とディスコWillの注目

「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉が注目を集めています。仕事への熱意を持たず、必要最低限の業務だけをこなす働き方を指すこの現象は、2022年にアメリカで広まり、日本でも深刻な課題となっています。ある調査では、日本の労働者の約44.5%が「静かな退職をしている」と回答しているとの結果も出ています。

こうした中、半導体製造装置大手の株式会社ディスコが運用する社内通貨「Will(ウィル)」制度が、静かな退職への有効な対策として注目を集めています。社員一人ひとりの貢献度を金額で可視化するこの制度は、社員の主体性を引き出し、年収4500万円を超える社員を生み出すほどのインパクトを持っています。本記事では、ディスコのWill制度の仕組みと、その効果について詳しく解説します。

ディスコと社内通貨「Will」の概要

世界トップクラスの半導体製造装置メーカー

ディスコは半導体ウエハーの切断・研削・研磨装置で世界トップシェアを誇る企業です。特に半導体切断装置では世界シェアの約75%を占めるとされ、生成AI向け半導体需要の高まりを追い風に業績は右肩上がりで推移しています。2025年3月期の平均年収は1,672万円(平均年齢37.3歳)と、日本企業の中でもトップクラスの待遇を実現しています。

この高い報酬水準を支えている仕組みの一つが、2003年から運用されている社内通貨「Will」です。Willは単なる社内ポイント制度ではなく、企業経営の根幹に組み込まれた管理会計の仕組みとなっています。

Will会計の基本的な仕組み

Will会計とは、社内のあらゆる業務やリソースに「Will」という通貨で値段をつけ、個人単位で収支を管理する仕組みです。1Will=1円の交換比率で運用されています。

具体的には、社員が業務を遂行するとWillで報酬が支払われます。一方、会議室の使用や備品の利用にはWillがかかります。残業をすればその分もWillの支出として計上されるため、自然と効率的な働き方が促進されます。この個人別の収支管理を「個人Will会計」と呼んでいます。

社内オークションと報酬連動の仕組み

仕事を「選ぶ」社内オークション

ディスコの最も特徴的な制度が社内オークションです。社内で発生した業務は社内市場に出品され、社員は自分の意志で「この仕事をこのWill価格で引き受けたい」と入札します。人気のある仕事は競争が激しくなり価格が下がる一方、難易度が高く人気のない仕事はWill価格が上がります。

この仕組みにより、上司が部下に仕事を指示するトップダウン型の働き方から、社員が自ら仕事を選ぶボトムアップ型の組織運営が実現しています。リクルートワークス研究所は、ディスコの経営を「官僚統治からWill統治へ」と表現しています。

賞与との連動で年収4500万円超も

Will制度が単なる社内の仮想通貨にとどまらない理由は、賞与との強い連動にあります。ディスコではWillの収支を賞与に反映させており、2024年度には賞与原資の約4割がWillの収支に連動して支給されました。この比率は年々引き上げられています。

結果として、困難なプロジェクトに積極的に取り組み、高額のWillを稼いだ社員は、年収が4500万円を超えるケースも出ています。一部報道では年収5,900万円に達する社員もいるとされ、個人の貢献度がダイレクトに報酬に反映される仕組みが整っています。

「静かな退職」対策としてのWill制度の効果

静かな退職が広がる背景

静かな退職が日本で広がっている背景には、「いくら頑張っても報われない」「評価基準が不透明」といった社員の不満があります。従来型の年功序列や不明確な評価制度のもとでは、「言われたことだけやっておこう」という消極的な態度は、社員にとってむしろ合理的な判断とも言えます。

日本では特に40代から60代のミドルシニア世代に多い傾向がある一方、20代にも広がりを見せており、世代を問わない課題となっています。

Will制度が生む「見える化」の力

ディスコのWill制度が静かな退職の防止に効果的な理由は、貢献度の「見える化」にあります。Will会計では、個人の業務成果が数値として明確に可視化されます。これにより、評価基準の不透明さという静かな退職の主要因が解消されます。

さらに、社員が自ら仕事を選べる仕組みは、仕事への主体性を高めます。「やらされている」のではなく「自分で選んだ」という感覚が、エンゲージメント向上に直結しています。ディスコは「働きがいのある会社ランキング」でも毎年上位にランクインしています。

多様な働き方の実現

Will制度のもう一つの利点は、多様な働き方を許容する点です。高額のWillを稼ぐために難しいプロジェクトに挑む社員がいる一方で、育児中の社員はWill獲得よりも早く帰れる仕事を選ぶことも可能です。ライフスタイルや能力に応じて働き方を選択できる柔軟性が確保されています。

Will制度導入に必要な文化と数値評価の限界

Will制度はディスコの企業文化と長い運用実績があってこそ機能している面があり、どの企業でもすぐに導入できるわけではありません。社内通貨制度の設計には、業務の適切な値付けや運用ルールの整備、社員の理解浸透に相当の時間とコストが必要です。

また、すべての業務を数値で評価することの限界もあります。チームワークや長期的な人材育成など、短期的な数値に表れにくい貢献をどう評価するかは継続的な課題です。

一方で、生成AI時代の到来により半導体需要がさらに拡大する中、ディスコの業績成長とWill制度の相乗効果は今後も注目されます。静かな退職が社会問題化する日本企業にとって、社員の貢献度を可視化し、報酬に連動させるディスコの手法は、一つの重要なモデルケースとなるでしょう。

社内オークションと賞与連動が生む主体性

ディスコの社内通貨「Will」制度は、社員の貢献度を金額で可視化し、賞与と連動させることで、主体的な働き方を促進しています。社内オークションによる仕事の選択制、個人別の収支管理、そして報酬との直接的なリンクという三位一体の仕組みが、静かな退職の防止に大きな効果を発揮しています。

評価の透明性と報酬への公正な反映は、社員のモチベーション維持に不可欠です。自社の評価制度や報酬体系を見直す際に、ディスコのWill制度の考え方を参考にしてみてはいかがでしょうか。

参考資料:

渡
渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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