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フジクラ改革に学ぶ選択的集権と現場分権の勝てる組織設計実務

by 田中 健司
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はじめに

企業改革で繰り返し問われるのが、「本社に集めるべきか、現場に任せるべきか」という論点です。多くの企業は、この問いを二者択一で扱いがちです。しかし実際の競争環境はもっと複雑です。市場変化が速い領域では現場の判断速度が必要で、同時に大型投資や技術開発、事業ポートフォリオの見直しでは全社最適が欠かせません。

フジクラの近年の改革は、この古典的な論点に対して示唆の多い事例です。2025年3月期までの公表資料を見ると、同社は危機対応の段階で本社機能を引き締めつつ、成長局面では事業ユニットの機動性も維持してきました。この記事では、公表資料で確認できる事実と、そこから読み取れる組織設計の含意を分けながら、「選択的集権」がなぜ効いたのかを考えます。

フジクラ再浮上を支えた改革の輪郭

危機対応で強めた本社の統制

フジクラの統合報告書2025によると、同社は2019年度に385億円の最終赤字を計上し、その後2020年以降に「100-Day Plan」による構造改革を断行しました。これは単なるコスト削減ではなく、危機局面で本社が意思決定の軸を握り直した局面とみるのが自然です。実際、同社のコーポレートガバナンス説明では、監査等委員会設置会社を採用した理由を「取締役会から業務執行取締役への大幅な権限委譲により機動的かつ効率的に業務執行体制を確立するため」と明記しています。

ここで重要なのは、権限を一律に吸い上げたのではなく、取締役会と執行側の役割を再設計している点です。取締役会は中長期戦略の立案、事業ポートフォリオの見直し、重要投資、グループ会社再編などを討議・決定します。一方、執行側はCEO、CTO、CFOの「三頭体制」で業務執行を担います。つまり、平時の現場オペレーションまで本社が抱え込むのではなく、全社価値に直結する論点だけを中央で握る構図です。

この設計は、集権と分権の折衷というより、集権対象の選別です。McKinseyは、中央集権化は法令順守などで必須な場合、企業価値に大きな上積みを生む場合、あるいは副作用が小さい場合に限るべきだと整理しています。フジクラの公表資料を当てはめると、資本配分、ポートフォリオ見直し、重要投資、ガバナンスはまさに中央が持つべき領域です。危機時にここを曖昧にしたままでは、部門最適が先行しやすいからです。

成長分野集中と業績回復の加速

再建が一過性で終わらなかった理由は、本社機能の引き締めを成長投資に結びつけた点にあります。フジクラの「2025年中期経営計画」は、2023年度から2025年度の実行計画として、「持続的な成長フェーズに向けた戦略実行ポートフォリオマネジメントにより高収益企業を目指す」と掲げました。具体策として、情報インフラ、情報ストレージ、情報端末の3つの核心的事業領域へ重点的に資源を投入し、3カ年のキャッシュフローに基づく中期キャピタルアロケーションも示しています。

この「どこに張るか」を本社が握ったことは、業績面にも表れています。2025年5月13日に公表された2025年3月期決算では、売上高が9,794億円、営業利益が1,355億円、親会社株主に帰属する当期純利益が911億円となりました。さらに2026年2月9日には、生成AI拡大を背景とするデータセンター向け需要を受け、2026年3月期の純利益予想を1,320億円から1,500億円へ、売上高予想を1兆1,090億円から1兆1,430億円へ上方修正しています。最新の公表情報ベースでは、フジクラは「選ぶ集権」が成長市場への集中と結びついた企業として読むことができます。

もちろん、需要追い風だけで説明するのは不十分です。需要が強い市場は他社にも開かれています。その中で成果が出た背景には、何に投資し、どの市場を伸ばし、どこから撤退・縮小するかを全社視点で回す枠組みがあったと考えるほうが自然です。ここは公表資料からの推論ですが、少なくとも中計とガバナンスの記述は、その解釈と整合しています。

集権か分権かではなく何を本社が握るか

本社が握るべき領域

フジクラの事例から、中央集権化の対象として優先度が高い領域は3つあります。第1は事業ポートフォリオです。どの事業に重点投資し、どの事業を再編し、どの案件を重要投資とみなすかは、事業部単位では決めにくい論点です。事業部はどうしても自部門の延命や拡張に傾きやすく、全社の資本効率や成長性とのトレードオフを判断しにくいからです。

第2は資本配分と財務規律です。フジクラは中期キャピタルアロケーションポリシーで、成長市場への重点投資、新規事業への機動投資、配当性向、自己資本比率の確保を並べています。これは言い換えれば、投資判断を現場の案件評価だけに任せず、全社の資本コストと財務健全性の視点で束ねるという意味です。設備投資が大型化しやすい製造業では、この中央統制が弱いと、景気の強い部門ほど投資を膨らませ、後で調整に苦しみやすくなります。

第3は技術開発と全社横断の重点テーマです。コーポレートガバナンス資料でCTOを明示し、CEOを補完する体制をとるのは、技術を単なる各事業部の下位機能に置いていないことの表れです。AIデータセンター、光配線、次世代通信、次世代車のように技術の横断利用が価値を生む局面では、技術ロードマップや共通基盤は中央が握るほうが再現性があります。

現場に残すべき領域

一方で、中央が全部を握れば良いわけではありません。Bainは、意思決定の混乱を防ぐには、誰が決め、誰が実行し、誰が入力するかを明確にし、中央と事業部のボトルネックを減らすべきだと指摘しています。フジクラの役員一覧を見ると、経営戦略、ガバナンス、コーポレートスタッフとは別に、情報通信、電子部品・コネクタ、自動車製品などの事業責任者が置かれています。この構成からは、顧客接点や日々の事業運営まで中央に寄せ切っていないことが分かります。

公表資料からの推論になりますが、現場に残すべきなのは、顧客別の提案、価格と納期の現実的な調整、地域市場への対応、既存製品の改善サイクルのような、情報が現場に偏在する領域です。データセンター市場のように需要が急変しやすい分野では、現場が顧客の投資タイミングや仕様変更をいち早くつかみ、すばやく実行に落とす必要があります。ここを本社承認だらけにすると、せっかくの成長機会を逃します。

要するに、フジクラ改革の核心は「本社か現場か」ではなく、「価値創造の再現性を高める決定は中央、顧客価値の微調整は現場」という線引きにあります。中央は戦略、資本、技術、統制を握る。現場は顧客対応、案件実行、運用改善を握る。この分け方ができると、中央は肥大化せず、現場も勝手連になりにくいです。

注意点・展望

選択的集権は、設計だけでは機能しません。危険なのは、中央が「重要案件」の定義を広げすぎることです。そうなると、何でも本社案件になり、承認が詰まり、現場は責任を持たなくなります。逆に、分権を掲げながら、ポートフォリオや投資基準が曖昧なままだと、部門最適が再発します。

フジクラが今後も強さを維持できるかは、2026年3月31日時点で追い風となっているAIデータセンター需要の持続だけでなく、この線引きを崩さずに運用できるかにかかっています。成長局面ほど、現場の成功体験が強くなり、本社統制を緩めたくなるからです。次の焦点は、Beyond2025で示す新規事業や成長投資を、既存の高収益事業とどう両立させるかになるでしょう。

まとめ

フジクラの改革が示すのは、集権と分権のどちらが正しいかではありません。重要なのは、何を中央で握り、何を現場に残すかを選び直すことです。危機時には本社が戦略、資本、ポートフォリオ、技術の軸を握り、成長時には現場の機動性を生かす。この順番と切り分けが、業績回復を持続成長へつなげる条件になります。

他社にとっての教訓も同じです。組織改革を図表の描き直しで終わらせず、重要意思決定の所在を見直すことです。どの判断が全社価値を左右し、どの判断が顧客価値に近いのかを切り分けられた企業ほど、集権と分権の対立から抜け出しやすくなります。

参考資料:

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