2026年の年末調整、変更点と控除拡大・178万円の壁を解説
2026年の年末調整で変わる税負担の全体像
2026年分の年末調整では、基礎控除と給与所得控除が引き上げられ、所得税の課税最低限は160万円から178万円へ移ります。扶養親族などの所得要件も広がるため、前年は対象外だった配偶者や子が、2026年は控除対象になる可能性があります。
変更はすでに成立した税制改正に基づくものです。原則として2026年12月1日に施行され、11月まで従来の税額表で源泉徴収した所得税を、12月の年末調整で新制度により精算します。2027年1月からは改正後の源泉徴収税額表へ切り替わります。
注目すべき変更は、控除額の引き上げだけではありません。扶養判定の給与収入基準は136万円以下となり、大学生年代の子に関する控除は給与収入197万円以下まで残ります。23歳未満の扶養親族がいる人には、一般生命保険料控除の特例も設けられました。国税庁の2026年分年末調整資料を基に、対象者と注意点を整理します。
課税最低限178万円をつくる控除拡大の仕組み
12月の精算に集中する新制度の適用時期
2026年度税制改正では、物価上昇に合わせて所得控除を見直す仕組みが導入されました。基礎控除の本則部分は58万円から62万円へ、給与所得控除の最低保障額は65万円から69万円へ、それぞれ4万円引き上げられています。
さらに、2026年分と2027年分には中低所得者向けの時限措置が加わります。基礎控除の上乗せ部分を拡充し、給与所得控除にも5万円を上乗せすることで、低所得層に実際に適用される給与所得控除は74万円となります。基礎控除の最大104万円と合わせると178万円です。
この「178万円」は、給与収入だけの人について所得税負担が始まる水準を示す目安です。ほかの所得や控除、年途中の就職・退職などがあれば結果は変わります。また、税金が一律に18万円減る制度ではなく、課税対象となる所得から差し引く金額が増える仕組みです。
国税庁によると、2026年11月までの給与計算では従来の源泉徴収税額表を使い、12月の年末調整で改正後の控除額を反映します。そのため、毎月の給与で税負担の軽減を実感できなかった人でも、年末調整で還付額が増える場合があります。ただし、扶養家族の収入増加などが重なれば追加徴収となる可能性もあり、還付が保証されるわけではありません。
基礎控除104万円と給与所得控除74万円の内訳
2026年分と2027年分の基礎控除は、合計所得金額によって次のように変わります。国税庁の基礎控除一覧では、合計所得489万円以下、給与収入ではおおむね665万円以下の層まで最大104万円が適用されます。
| 合計所得金額 | 2026・2027年分の基礎控除 |
|---|---|
| 489万円以下 | 104万円 |
| 489万円超655万円以下 | 67万円 |
| 655万円超2,350万円以下 | 62万円 |
| 2,350万円超2,400万円以下 | 48万円 |
| 2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
| 2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
| 2,500万円超 | 0円 |
給与所得控除は、物価連動による最低保障額69万円に時限的な5万円を加え、給与収入220万円以下では原則74万円となります。給与収入が220万円を超える部分の計算方法は基本的に従来どおりです。
前年と比べた基礎控除の増加幅も所得帯で異なります。合計所得132万円以下では9万円、132万円超336万円以下では16万円、336万円超489万円以下では36万円増えます。489万円超2,350万円以下では4万円の増加です。
所得控除の増加額と、実際に減る所得税額は同じではありません。減税額は、増えた控除額に本人の所得税率を掛けた金額が基本となります。もともと所得税がかかっていない人には、控除拡大による現金給付はありません。
時限措置が残す2028年以降の不確実性
最大104万円の基礎控除と給与所得控除74万円の一部は、2026年分と2027年分に限る特例です。現行制度では、2028年分以降の基礎控除は一部の所得帯で縮小し、給与所得控除の最低保障額も69万円となります。
財務省は今後も消費者物価指数を踏まえて本則部分を調整する方針ですが、178万円の水準をどのように維持するかは将来の税制改正にも左右されます。2026年の就業時間や家計計画を、そのまま恒久的な前提とするのは早計です。
財務省は、物価上昇に対応する基礎控除などの見直しによる国税の減収額を平年度6,680億円と見込んでいます。減税が家計を支える一方、安定財源との両立が引き続き政策課題となります。
扶養家族がいる世帯で広がる控除の対象範囲
配偶者・扶養親族の給与収入136万円基準
基礎控除の本則が62万円へ上がったことに伴い、同一生計配偶者や扶養親族の合計所得要件は58万円以下から62万円以下へ変わります。2026年分の給与所得控除74万円を反映すると、給与だけを受け取る親族の収入基準は123万円以下から136万円以下へ広がります。
主な変更は次のとおりです。
| 判定対象 | 2025年の給与収入要件 | 2026・2027年の給与収入要件 |
|---|---|---|
| 同一生計配偶者・扶養親族 | 123万円以下 | 136万円以下 |
| 配偶者特別控除の対象配偶者 | 123万円超201万5,999円以下 | 136万円超207万円以下 |
| 勤労学生控除 | 150万円以下 | 163万円以下 |
| 特定親族特別控除 | 123万円超188万円以下 | 136万円超197万円以下 |
前年に給与収入が123万円を超えたため扶養控除などを受けられなかった親族でも、2026年の給与収入が136万円以下なら対象となる可能性があります。会社に提出済みの扶養控除等申告書に記載していない場合は、異動後の申告書を出し直す必要があります。
ただし、「給与収入」と「合計所得金額」は同じではありません。親族に副業、事業、暗号資産取引、不動産などの所得があれば、それらも合計所得の判定に含まれます。給与明細だけを見て判断すると、年末調整後に控除が取り消されるおそれがあります。
また、16歳未満の親族には所得税の扶養控除自体はありません。扶養親族としての情報が、住民税の非課税判定やほかの制度に影響する場合はあるため、年齢と所得の両方を確認する必要があります。
大学生年代で197万円まで続く段階控除
19歳以上23歳未満の親族については、2025年に創設された特定親族特別控除が2026年も適用されます。年齢は原則として12月31日時点で判定し、配偶者を除く生計を一にする親族が対象です。
2026年は、子などの給与収入が136万円以下なら通常の特定扶養控除として63万円を控除できます。136万円を超えても159万円以下であれば、特定親族特別控除として同額の63万円が維持されます。
給与収入が159万円を超えると控除額は段階的に減り、197万円以下であれば最低3万円の控除が残ります。国税庁の特定親族特別控除資料による主な区分は次のとおりです。
| 特定親族の給与収入 | 親などが受ける控除額 |
|---|---|
| 136万円超159万円以下 | 63万円 |
| 159万円超164万円以下 | 61万円 |
| 164万円超169万円以下 | 51万円 |
| 169万円超174万円以下 | 41万円 |
| 174万円超179万円以下 | 31万円 |
| 179万円超184万円以下 | 21万円 |
| 184万円超189万円以下 | 11万円 |
| 189万円超194万円以下 | 6万円 |
| 194万円超197万円以下 | 3万円 |
大学生年代の子が複数のアルバイトを掛け持ちしている場合、すべての勤務先から受け取る給与を合計します。親は見込み額だけでなく、12月までのシフト、賞与、年末の追加勤務も含めて確認する必要があります。
特定親族特別控除は自動適用ではありません。勤務先へ「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を提出し、親族の所得見積額や続柄などを申告する必要があります。
子育て世帯に加わる生命保険料控除の特例
2026年分では、23歳未満の扶養親族がいる人について、新契約に基づく一般生命保険料控除の上限が4万円から6万円へ引き上げられます。2012年1月1日以後に締結した一般生命保険契約が中心です。
年間の新生命保険料が3万円以下なら全額、3万円超6万円以下なら「保険料の2分の1と1万5,000円の合計」、6万円超12万円以下なら「保険料の4分の1と3万円の合計」を控除します。年間12万円を超えると控除額は6万円です。
一方、一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を合わせた生命保険料控除全体の上限12万円は変わりません。すでに全体上限に達している人は、一般生命保険料の枠が増えても控除総額が増えない場合があります。
最大2万円増えるのは所得控除額であり、税金がそのまま2万円戻る制度でもありません。実際の減税額は所得税率などで変わります。また、子が23歳未満というだけでは足りず、税法上の扶養親族に当たるかどうかも確認が必要です。国税庁の生命保険料控除の説明で新旧契約の区分を確認し、控除証明書を勤務先へ提出します。
勤労学生と既存控除の再点検
勤労学生控除の合計所得要件は85万円以下から89万円以下へ上がり、給与だけの場合の収入目安は150万円以下から163万円以下になります。大学生年代の子については、本人の勤労学生控除と、親が受ける扶養関係の控除を分けて考えなければなりません。
家族の国民年金保険料を本人に代わって親が支払った場合など、実際に負担した人が社会保険料控除を申告できるケースもあります。地震保険料、小規模企業共済等掛金、障害者控除、ひとり親控除など、従来からある控除についても家庭状況の変化を確認することが重要です。
住宅ローン控除は、最初の年は原則として確定申告が必要ですが、2年目以降は年末調整の対象です。医療費控除、雑損控除、寄附金控除は勤務先の年末調整では処理できないため、必要に応じて確定申告を行います。ふるさと納税でワンストップ特例の要件を満たす場合は別の扱いです。
住民税・社会保険とのずれが招く手取りの盲点
所得税の178万円基準だけを見て働く時間を決めると、手取りを見誤る可能性があります。住民税と社会保険には、所得税とは異なる基準があるためです。
2026年中の所得に対する住民税は、原則として2027年度に課税されます。住民税でも給与所得控除の最低保障額は74万円となり、扶養親族などの所得要件は62万円以下へ広がります。一方、基礎控除は最高43万円のままで、所得税の最大104万円とは大きく異なります。
例えば、行橋市が示す給与収入のみの単身者の例では、住民税が非課税となる収入水準は115万5,000円です。所得税がかからない178万円まで働けるとしても、住民税まで非課税になるわけではありません。非課税限度額は扶養人数や自治体区分などでも変わるため、居住する市区町村への確認が必要です。
住民税非課税かどうかは、自治体の給付、保育料、国民健康保険料、就学支援などの判定に使われる場合があります。国が所得税を大きく減らす一方、自治体税では基礎控除を据え置いた制度設計は、家計から見ると分かりにくさを増します。自治体にとっては、行政サービスの財源を維持しながら物価高への対応を迫られる構図です。
社会保険では、2026年10月1日に短時間労働者の月額8万8,000円以上という賃金要件が撤廃されました。しかし、勤務先が原則として従業員51人以上、週の所定労働時間が20時間以上、学生ではないことなどの要件は残っています。日本年金機構の案内が示す通り、税制上の178万円とは連動しません。
配偶者などが健康保険の被扶養者から外れる、いわゆる130万円基準も別に存在します。所得税の扶養基準が136万円へ上がっても、社会保険料負担が発生するタイミングは一致しないため、勤務時間、勤務先の規模、加入する健康保険の認定基準まで確認する必要があります。
年内に家族と勤務先で確認したい申告項目
最初に確認したいのは、本人と家族それぞれの2026年中の収入見込みです。給与を複数の勤務先から受け取っている場合は合算し、給与以外の所得も漏らさず整理します。配偶者や子の収入が旧基準を超えていても、新基準では控除対象となる可能性があります。
次に、勤務先から配布された申告書を前年の情報のまま提出しないことです。少なくとも、次の項目を照合します。
- 基礎控除申告書に記載する本人の合計所得見積額
- 配偶者控除等申告書に記載する配偶者の所得見積額
- 扶養控除等申告書に記載する給与収入136万円以下の親族
- 特定親族特別控除申告書に記載する19歳以上23歳未満の親族
- 保険料控除申告書と生命保険料控除証明書の新旧契約区分
- 住宅ローン控除を受ける場合の申告書と年末残高情報
- 転職者が前職から受け取る源泉徴収票
年末調整の対象となるのは、原則として扶養控除等申告書を提出し、年末まで勤務する給与所得者です。年間給与が2,000万円を超える人や、通常の年途中退職者などは対象外となります。
提出後に家族の収入見込みが変わった場合は、速やかに勤務先へ連絡します。年末調整に間に合わなかった控除や、医療費控除など勤務先で扱えない項目は、2027年の確定申告で精算できます。178万円という一つの数字だけではなく、所得税、住民税、社会保険を三つの別制度として点検することが、2026年の手取りを正しく把握する近道です。
参考資料:
- 令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について|国税庁
- 令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし|国税庁
- 令和8年度税制改正・所得税の基礎控除の引上げ等関係Q&A|国税庁
- 令和8年分年末調整のしかた|国税庁
- No.1199 基礎控除|国税庁
- No.1177 特定親族特別控除|国税庁
- No.1140 生命保険料控除|国税庁
- No.2665 年末調整の対象となる人|国税庁
- 令和8年度税制改正の大綱|財務省
- 令和8年度税制改正・国税等について|財務省
- 令和8年度税制改正パンフレット|財務省
- 令和8年度税制改正案の概要|国立国会図書館
- 短時間労働者に係る賃金要件の撤廃|日本年金機構
- 令和8年度税制改正の主な内容について|行橋市
- 申告書の提出と控除関係書類|国税庁
関連記事
年収の壁106万円撤廃でも残る働き控え400万人超の構造課題
106万円の壁が2026年10月に撤廃されても、働き控えは400万人超とされる。最低賃金上昇で年収上限に近づく時間は短くなり、130万円の壁や企業の配偶者手当、周知不足も残る。社会保険適用拡大が労働供給を増やす条件と、小売・介護・外食の賃金設計やシフト運用の論点、企業が今秋から備えるべき実務を読み解く。
10月開始のビール税率統一と106万円の壁撤廃の実務対策を解説
2026年10月1日、ビール系飲料の酒税は350ml当たり54.25円に統一され、短時間労働者の月額8.8万円要件も撤廃されます。ビール回帰で変わる店頭価格、発泡酒ブランドの再編、社会保険加入で揺れる手取りと人員配置を、家計と職場の両面から確認。企業が見直すシフト、配偶者手当、価格転嫁の論点まで解説。
税制改正の焦点、178万円の壁と公平負担が映す地方財政の未来
2026年度税制改正は所得税の課税最低限を178万円へ近づけ、超高所得層には追加負担を求めた。基礎控除、金融所得課税、地方税収、社会保障財源の緊張をたどり、2027年以後の制度変更や住民税減収の数字も踏まえ、年収の壁の見直しが働き方と自治体サービスへ及ぼす波紋まで、財務省が描く税体系の再設計を読み解く。
年金改革の先送りを徹底検証、基礎年金3割減とパート適用拡大の影響
2025年の年金制度改正は、基礎年金の底上げ判断を2029年の財政検証後に送り、短時間労働者への厚生年金適用も企業規模要件の完全撤廃が2035年となった。2024年財政検証が示す給付水準約3割低下の構造、2026年10月に撤廃された月額8.8万円要件、地方の国保財政と小規模事業者への影響を検証する。
海外居住者の国内不動産課税、個人事業税の空白を総務省が是正へ
総務省は、国内に事務所や住所を持たず不動産貸付業・駐車場業を営む海外居住者にも個人事業税を課す制度を検討しています。所得税や固定資産税との違い、年290万円の事業主控除と原則5%の税率、不動産所在地への課税権帰属、納税管理人や複数県物件を巡る主要な実務課題まで、2027年度税制改正の焦点を読み解く。
最新ニュース
Apple年末商戦、高価格iPhone偏重で問われる成長持続力
Appleは2026年の年末商戦で、21万9,800円からのiPhone 18 Proと36万4,800円からの折りたたみ型iPhone Duoを新製品の柱に据えた。標準モデルを翌年へずらす分散投入、旧世代の併売と分割払い、メモリー高騰による供給・採算リスクを整理し、高価格機種頼みの成長が持続する条件を読み解く。
アクティビストに狙われたダイキン、利益率と挑戦文化の両立を問う
米エリオットの株式取得を機に、ダイキン工業は売上高偏重から営業利益率・ROEを重視する「率の経営」へ転換した。3,500億円の自社株買い、低採算事業の改革、間接費削減が進む一方、盆踊りや越境プロジェクトが育てる自主性と失敗許容の文化をどう守るのか。資本効率と人的資本を両立する経営設計を深く読み解く。
管理職を支えるAI活用、オムロン・JTB・セガサミーの人材戦略
管理職の負担が増す中、AIは1on1の準備や目標設定、研修設計をどう変えるのか。オムロン、JTB、セガサミーの公開施策と最新調査を基に、部下育成を支援する仕組み、面談データ活用の効果、監視化や個人情報漏えいを防ぐ原則、人事部門が整えるべき指標と現場の対話を守りながら成果につなげる導入条件まで読み解く。
NECが1万人超SIerを吸収、AI時代に迫るSE雇用再編の怖さ
NECは2026年10月、1万人超のITエンジニアを抱えたNECソリューションイノベータを吸収合併した。国内IT需要が堅調な一方、生成AIは実装・試験の工数を急速に圧縮する。なぜ今、大規模SIerを本体に取り込み、SEをコンサルティングや運用へ移すのか。人月モデルの限界と雇用再編の行方を、決算・人材データから読み解く。
ANAHD、AIRDO・ソラシド完全子会社化 国内線再編の狙い
ANAホールディングスはAIRDOとソラシドエアを傘下に持つRPWの完全子会社化で基本合意した。株式交換の条件、黒字でも薄い収益基盤、規制緩和が開いた再編、調達・販売・運航計画の統合効果を検証。羽田発着枠の回収や運賃競争、地域ブランド、少数株主保護など、2027年4月の実現に向けた経営課題を読み解く。