パワーカップル減少の裏に潜む管理職離れの実態
賃上げ5.32%下のパワーカップル上位層減少
日本では賃上げの流れが加速し、2025年の春闘では平均賃上げ率が5.32%と33年ぶりの高水準を記録しました。にもかかわらず、夫婦ともに年収1,000万円を超える「パワーカップル」の中でも、特に上位層が減少に転じているという指摘が注目を集めています。
パワーカップル世帯は過去10年で2倍に増え、2024年には約45万世帯に達しました。しかし、その内実を詳しく見ると、管理職として高収入を維持し続けることの難しさが浮かび上がります。出社回帰の加速、管理職の「罰ゲーム化」、そして育児との両立問題が絡み合い、高収入共働き夫婦のあり方に変化が生じています。
本記事では、パワーカップル減少の背景にある構造的な問題を、最新のデータとともに読み解きます。
パワーカップルの定義と最新動向
そもそもパワーカップルとは
パワーカップルには明確な統一定義はありませんが、代表的なものとして2つの基準があります。三菱総合研究所は「夫の年収600万円以上、妻の年収400万円以上で世帯年収1,000万円以上」と定義しています。一方、ニッセイ基礎研究所は「夫婦ともに年収700万円以上」をパワーカップルとしています。
さらに厳しい基準として「夫婦ともに年収1,000万円以上」という定義もあり、この層は全体のごく一部に限られます。年収1,000万円以上の妻の約69%は、夫も年収1,000万円以上であるというデータがあり、高収入同士が結婚する傾向は明確です。
増加するパワーカップル、しかし上位層には異変
ニッセイ基礎研究所の調査によると、パワーカップル世帯は2017年の約25万世帯から2024年には約45万世帯へと大幅に増加しました。共働き世帯全体の約2.9%を占め、そのうち約7割が子どものいる「パワーファミリー」です。
ただし、全体数が増加する一方で、「夫婦ともに1,000万円以上」という最上位層には停滞や減少の兆候が見られます。この背景には、管理職ポジションを維持することの困難さが深く関わっています。
管理職の「罰ゲーム化」がもたらす影響
なりたくない管理職
近年、「管理職の罰ゲーム化」という言葉が人事業界で広く使われるようになりました。パーソル総合研究所の調査では、現在の会社で管理職になりたいと答えた人はわずか16.7%にとどまっています。日本生産性本部の2023年調査でも、一般社員の77.3%が「管理職になりたくない」と回答しました。これは2018年の72.8%からさらに上昇しています。
管理職が敬遠される理由は明確です。働き方改革により一般社員の残業は減りましたが、その分の業務が管理職に集中しています。日本の管理職の90%以上が、マネジメント業務と実務を兼任する「プレイングマネージャー」であり、責任は増える一方で報酬や裁量はそれに見合わないという構造的な問題を抱えています。
高収入を維持できない構造
管理職になっても給与の上昇幅が限定的であることも大きな問題です。責任やストレスが増大する一方で、管理職手当による収入増は限定的です。このため、管理職を降りる選択をする人や、そもそも管理職への昇進を辞退する人が増えています。
夫婦ともに年収1,000万円以上を維持するには、通常どちらかまたは両方が管理職級のポジションにいる必要があります。管理職を降りれば年収は下がり、パワーカップルの条件を満たさなくなるケースが生じます。
第一生命経済研究所の分析でも、管理職の負担増加が人材の流出や昇進回避を招いていることが指摘されており、これが高収入層の減少に直結しています。
出社回帰が共働き世帯を直撃
加速するオフィス回帰
2025年以降、大手企業を中心に出社回帰の動きが加速しています。アマゾンジャパンやアクセンチュアなど、グローバル企業が週5日出社を義務化する方針を打ち出しました。Job総研の2025年調査では、従業員の7割超が「週3日以下の出社」を望んでいるにもかかわらず、企業側の方針との乖離が広がっています。
育児世帯、特に女性への影響
出社回帰の影響を最も強く受けるのは、育児中の共働き世帯です。育児中の女性を対象にした調査では、完全出社での育児と仕事の両立について79.7%が「イメージがわかない」と回答しています。通勤時間の増加、保育園の送迎との調整、体力的な負担が主な理由として挙げられています。
フル出社への不満は女性で特に顕著であり、40%が不満を表明しています。「時間効率の悪さ」や「働き方の選択肢の制限」が大きな課題です。テレワークの柔軟性があったからこそ管理職を続けられていた女性が、出社義務化により管理職を降りる、あるいは転職・離職を選ぶケースが増えている可能性があります。
Lカーブの固定化リスク
日本の女性の正規雇用比率は、25〜29歳をピークに年齢とともに低下する「Lカーブ」を描いています。出社回帰がこのカーブをさらに固定化させるリスクがあります。せっかく管理職まで昇進した女性が、働き方の柔軟性の喪失により離職を余儀なくされれば、パワーカップルの減少はさらに進むことになります。
2026年4月公表義務化と管理職改革の焦点
2026年の法改正が転換点に
2026年4月からは、従業員101人以上の企業に「女性管理職比率」と「男女間賃金差異」の公表が義務化されます。現在、日本の女性管理職比率は平均11.1%で、スウェーデンの41.7%やアメリカの41.0%と比べて大きく遅れています。情報公表の義務化により、企業が女性の管理職維持・登用に本腰を入れる契機となる可能性があります。
賃上げだけでは解決しない
2025年の賃上げ率は高水準でしたが、2026年度は「5%以上」の賃上げを予定する企業が35.5%と前年の39.6%から低下しています。単純な賃上げだけではパワーカップルの増加にはつながりません。管理職の負担軽減、柔軟な働き方の維持、そして性別を問わないキャリアパスの整備が不可欠です。
企業に求められる対応
管理職の魅力を回復させるためには、業務量の適正化、権限委譲の推進、そしてハイブリッドワークの継続が重要です。出社を一律に義務化するのではなく、成果に基づいた柔軟な働き方を認めることが、優秀な人材の流出を防ぐ鍵となります。
管理職罰ゲーム化と出社回帰による上位層減少
パワーカップルの上位層が減少している背景には、管理職の「罰ゲーム化」と出社回帰という2つの大きな構造変化があります。賃上げが進んでも、管理職の負担増や働き方の柔軟性の喪失が高収入の維持を困難にしています。
特に育児を担う女性管理職への影響は深刻です。2026年4月の法改正を契機に、企業が管理職のあり方を見直し、柔軟な働き方を維持できるかどうかが、今後のパワーカップルの増減を左右する重要なポイントとなります。共働き世帯の収入格差を縮小し、誰もがキャリアを継続できる環境づくりが、社会全体の課題として求められています。
参考資料:
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