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キーエンス年収2178万円首位、大企業の賃上げを支える収益力

by 渡辺 由紀
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大企業の平均年収819万円と首位2社の位置づけ

単独従業員が1000人以上の上場741社では、2025年度の平均年収が819万円となり、前年度から32万円、率にして4.1%増加しました。1000万円以上の企業も76社に増え、大企業の賃上げが一部の好業績企業だけに限られない動きとなっています。

首位はキーエンスの2178万3259円、2位は三菱商事の2112万5472円です。ただし、この順位は従業員1000人以上という条件で比較した結果です。高額報酬を持続できる理由を理解するには、金額だけでなく、収益構造や従業員の範囲、賞与制度まで確認する必要があります。

キーエンス2178万円を生む高付加価値モデル

単体3306人が生み出す一人当たり営業利益4660万円

キーエンスの有価証券報告書によると、2026年3月期の単体従業員数は3306人、平均年齢は35.0歳、平均勤続年数は11.3年です。平均年間給与には基準外賃金と賞与が含まれます。比較的若い平均年齢で2178万円という水準に達している点が、同社の際立った特徴です。

報酬の原資を支えるのが、極めて高い一人当たり利益です。2026年3月期の連結売上高は1兆1692億円、営業利益は5958億円となりました。会社が開示する営業利益率は51.0%、一人当たり営業利益額は4660万円です。給与が高いというより、従業員一人が生み出す付加価値が大きく、その一部を人材へ還元できる構造と捉えるべきです。

同社は経営方針として「最小の資本と人で最大の付加価値を上げる」と明記しています。年収ランキングの首位は、単発の賃上げ策ではなく、少人数で高い利益を生む経営モデルの結果です。

直販とファブレスをつなぐ高生産性の循環

キーエンスは、工場自動化向けのセンサー、測定器、画像処理機器などを展開しています。代理店を介さない直販体制を採用し、商品知識を持つ営業担当者が顧客の製造現場へ入り、設備の停止防止や検査精度向上といった課題に対応します。

直販で得た情報は商品開発へ戻され、複数の業界で使える汎用性の高い製品へ転換されます。同社によると、新商品の約7割は発売時点で世界初または業界初の機能・コンセプトを持ちます。価格競争に巻き込まれにくい製品を生み出せるため、営業担当者も単なる販売員ではなく、顧客利益を設計する役割を担います。

生産面では自社工場を持たないファブレス経営を採用し、企画・開発・設計へ経営資源を集中させています。高付加価値商品、提案型直販、外部生産の組み合わせが固定費を抑え、高い利益率につながっています。

一方、高収入は職務に対する要求水準の高さと表裏一体です。転職希望者は平均年収だけで判断せず、担当顧客数、評価周期、賞与の変動幅、労働時間、求められる技術知識まで確認する必要があります。

三菱商事の報酬設計と大企業賃上げの構造変化

単体5328人に適用される市場競争型の報酬制度

三菱商事の平均年間給与は前年度比3.9%増の2112万5472円です。単体従業員数は5328人、平均年齢は42.3歳、平均勤続年数は17年7カ月で、平均給与には超過勤務手当と賞与が含まれます。

連結従業員数は6万3037人ですが、2112万円は国内外の全グループ社員に共通する数字ではありません。有価証券報告書上の「提出会社」、つまり三菱商事単体を対象とした平均です。顧問や出向者などの扱いも定義されており、連結人数と単体平均給与をそのまま結び付けることはできません。

同社は、資格制度と職務給制度を組み合わせた人事制度を採用しています。キャリアの初期には能力開発や多様な経験を重視し、役割が上がるにつれて職務と成果へ報酬の軸足を移す設計です。業績連動賞与に加え、一定資格以上では株式交付制度も導入しています。

2025年度の親会社所有者帰属利益は8005億円で、前年度の9507億円を下回りました。それでも平均給与は上昇しています。単年度利益だけで人件費を決めるのではなく、投資、事業再編、海外経営を担う人材を長期的に確保する必要性が報酬水準を支えていると読み取れます。

人手不足が促す大企業への人材移動

厚生労働省が集計した2025年の主要企業の春季賃上げ率は、定期昇給を含めて5.52%でした。対象は資本金10億円以上、従業員1000人以上で労働組合のある390社です。大企業の平均年収が4.1%増えた動きは、春季交渉で先行した賃上げが賞与や給与テーブルへ広がった結果でもあります。

2025年賃金構造基本統計調査では、一般労働者の所定内給与は月34万600円で前年比3.1%増えました。国税庁の2025年分調査でも、年間平均給与は487万円、正社員は559万円と、いずれも前年を上回っています。ただし、大企業上場会社との水準差は依然として大きいままです。

労働政策研究・研修機構が紹介した政府分析では、中小規模の企業から従業員1000人以上の企業へ移る転職者の割合が長期的に上昇しています。2025年の転職入職者では、前職より賃金が増えた人が40.8%でした。人手不足下では、給与と福利厚生で優位に立つ大企業へ人材が流れ、その流れを止めるために企業がさらに処遇を引き上げる循環が生じます。

平均年収ランキングに潜む比較上の落とし穴

有価証券報告書の平均年間給与は、原則として提出会社単体の従業員が対象です。賞与や時間外手当は含まれますが、中央値、職種別給与、年齢別給与、退職金、福利厚生の価値までは分かりません。社員構成が変わるだけでも平均値は動くため、前年比の上昇分が全社員への一律賃上げとは限りません。

集計条件によって順位や平均額も変わります。帝国データバンクは全上場企業を広く対象とし、2025年度の企業単位の平均を692万6000円、中央値を661万6000円と集計しました。東京商工リサーチは持株会社などを除いた3123社を従業員数で加重し、平均を778万7744円としています。この集計ではキーエンスは3位、三菱商事は5位です。

つまり「キーエンス1位、三菱商事2位」は、単独従業員1000人以上という大企業の条件を付けた順位です。応募先を比べる際は、対象が単体か連結か、持株会社を含むか、単純平均か従業員加重平均かをそろえなければなりません。

高額な賞与は業績悪化時に減少し得ます。為替、設備投資、資源価格などが業績へ与える影響も異なるため、現在の平均年収が将来も保証されるわけではありません。

転職者と企業が確認すべき持続的賃上げの条件

転職希望者は平均年収に加え、平均年齢、勤続年数、基本給と賞与の比率、評価制度、労働時間、異動・転勤、研修機会を確認すべきです。同じ2000万円台でも、キーエンスの高生産性型と三菱商事の長期育成・事業投資型では、求められる能力とキャリアの作り方が異なります。

企業側に必要なのは、人件費だけを先に増やすことではありません。商品やサービスの付加価値、価格決定力、従業員一人当たり利益を高め、その成果を透明な基準で還元する仕組みです。採用数や初任給だけでなく、離職率、社内公募、育成投資、男女の登用差まで追うことが、持続的な人材戦略の評価につながります。

年収ランキングは企業選びの入口にはなりますが、答えそのものではありません。高賃金を生む事業構造と、働く人が成長できる制度の両方を確認することが、後悔しないキャリア選択の条件です。

参考資料:

渡
渡辺 由紀

雇用・人材戦略・キャリア

雇用・人材戦略・キャリアを専門に取材。高専人材の争奪戦から中途採用市場の変化まで、「働く」を取り巻く構造変化を解き明かす。

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