20代から女性管理職候補を選抜、「健全なえこひいき」の効果とは
はじめに
日本企業の女性管理職比率は平均11.1%にとどまり、政府が掲げる「2030年までに30%」の目標には依然として大きな開きがあります。国際的にもスウェーデンの41.7%、アメリカの41.0%と比較して著しく低い水準です。
こうした中、注目を集めているのが「20代のうちに女性の管理職候補を選抜する」というアプローチです。パーソル総合研究所の小林祐児氏が著書『罰ゲーム化する管理職』で提唱する「健全なえこひいき」の考え方とあわせて、日本企業の女性活躍推進における実効性ある方法を解説します。
「罰ゲーム化する管理職」という現実
なぜ管理職は敬遠されるのか
管理職の「罰ゲーム化」とは、パーソル総合研究所の小林祐児氏が著書で指摘した現象です。現代の管理職は、プレイングマネージャーとしての実務負担に加え、ハラスメント対応、コンプライアンス管理、部下の育成、メンタルヘルスケアなど、増え続ける業務を抱えています。
一方で、管理職と非管理職の賃金差は縮小傾向にあり、「負担は増えるが見返りは減る」という構図が定着しています。こうした状況が、管理職への昇進を「罰ゲーム」のように感じさせ、特に女性にとって管理職を目指す意欲を削ぐ大きな要因となっています。
女性が管理職を敬遠する背景
博報堂キャリジョ研の調査によれば、「管理職になりたい」と考える20〜30代の女性は約3割にとどまります。その背景には、仕事と家庭の両立への不安、ロールモデルの不在、そして管理職の業務負荷への懸念があります。
さらに深刻なのは、企業側にも「適切な女性人材がいない」という認識が根強く存在する点です。しかし、これは女性に能力がないのではなく、管理職に必要な経験を積む機会が男性に比べて少ないことが原因である場合が多いのです。
「健全なえこひいき」とは何か
20代からの計画的な育成投資
「健全なえこひいき」とは、管理職候補となる女性社員を早期に選抜し、意図的に成長機会を提供する人材育成手法です。全員に均等な機会を提供するのではなく、ポテンシャルの高い人材に重点的に投資するという考え方に基づいています。
具体的には、20代後半から30代前半の段階で、管理職候補として有望な女性社員を選抜し、以下のような計画的な育成を行います。
- 部門横断的な異動経験: 30代前半までに複数部門を経験させ、経営視点を養う
- リーダーシップ研修への参加: チームリーダー研修や女性リーダー育成プログラムに継続的に参加
- メンター制度の活用: 既に管理職として活躍する女性社員がメンターとなり、キャリア形成を支援
- 段階的な権限委譲: プロジェクトリーダーやチームリーダーなど、段階的にマネジメント経験を積む機会を提供
なぜ「えこひいき」が必要なのか
「えこひいき」という言葉にはネガティブな印象がありますが、小林氏はこれを「構造的な不均衡を是正するための戦略的投資」と位置づけています。
日本企業では、基幹的な業務や修羅場経験が男性に偏る傾向があり、結果として管理職に必要なスキルや実績が男性に蓄積されやすい構造があります。この構造を変えないまま「平等に機会を与えている」と言っても、実質的には男性有利の状況が続きます。
早期選抜による「健全なえこひいき」は、この構造的な不均衡を意識的に補正する取り組みです。重要なのは、選抜基準を明確化し、透明性を確保することで、組織全体の納得感を得ることです。
パーソルグループの取り組み事例
「はたらいて、笑おう。」を掲げるDEI推進
パーソルホールディングスは、「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンに掲げ、女性活躍推進を重点テーマの一つに位置づけています。テンプスタッフ(現パーソルテンプスタッフ)やインテリジェンス(現パーソルキャリア)を中心に複数の企業が経営統合し、2016年に誕生した同グループは、DEI(多様性・公平性・包摂性)推進に積極的に取り組んでいます。
同社執行役員の喜多恭子氏は、パーソルホールディングス初の女性執行役員として、CGDO(Chief Gender Diversity Officer)に就任しました。ジェンダーダイバーシティ委員会の委員長として、2030年までに女性管理職比率37%を目標に掲げています。
制度と風土の両面からのアプローチ
パーソルグループの取り組みの特徴は、制度面と組織風土の両方を同時に変革しようとしている点です。制度面では、管理職候補となる女性社員を毎年リーダー育成プログラムに送り出し、チームリーダー研修への参加を通じて組織全体のマネジメント力を向上させています。
組織風土の面では、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の解消に向けた研修を実施し、「女性には重要な仕事を任せにくい」「育児中の社員に負担をかけてはいけない」といった善意に基づく偏見を取り除く取り組みを進めています。
課題と今後の展望
2026年4月からの情報公表義務化
2026年4月からは、常時雇用する労働者数が101人以上の企業に対して、「男女間賃金差異」および「女性管理職比率」の公表が義務化されます。これまで301人以上の企業が対象だった情報公表義務の範囲が拡大されることで、中小企業も含めた幅広い企業が女性活躍推進に本腰を入れる必要に迫られます。
この制度変更は、企業間の比較を容易にし、求職者が企業を選ぶ際の判断材料にもなります。情報の透明化が進むことで、女性管理職比率の向上に向けた取り組みがさらに加速することが期待されます。
「管理職の魅力」を取り戻す必要性
早期選抜で有望な人材を育成しても、管理職自体が魅力のないポジションであれば、候補者は管理職への昇進を辞退してしまいます。「健全なえこひいき」による育成と同時に、管理職の業務負荷の適正化、権限の拡大、報酬の見直しなど、管理職というポジション自体の魅力を高める取り組みが不可欠です。
小林氏も「罰ゲーム化」の解消なくして女性管理職の増加はないと指摘しており、個人の育成と組織の構造改革を並行して進めることの重要性を強調しています。
まとめ
日本企業の女性管理職比率30%達成に向けて、20代からの早期選抜と「健全なえこひいき」による計画的な育成は、実効性の高いアプローチです。構造的な不均衡を放置したまま「平等」を掲げても、結果の平等は実現しません。
一方で、管理職の「罰ゲーム化」という根本的な課題を解決しなければ、育成した人材が管理職を辞退するという矛盾が生じます。2026年4月の情報公表義務化を契機に、個人の育成と組織の構造改革を両輪で進める企業が増えることが期待されます。
参考資料:
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