地方大学の生き残り戦略 共愛学園前橋国際大の挑戦
定員割れ53.2%時代の共愛学園の異彩
日本の私立大学が深刻な危機に直面しています。日本私立学校振興・共済事業団の調査によると、2025年度に定員割れとなった私立大学の割合は53.2%に達しました。少子化の波は容赦なく地方の大学を飲み込み、学生募集の停止に追い込まれるケースも増えています。
こうした厳しい環境の中で、群馬県前橋市にある共愛学園前橋国際大学が異彩を放っています。入学定員255名の小規模大学でありながら定員充足率100%超を維持し、朝日新聞社刊行の『大学ランキング』で「学長が注目する学長」に4年連続1位で選ばれました。旧帝大や有名私大を差し置いて地方の小規模私立大学がトップに立つのは極めて異例です。
この記事では、大森昭生学長が推進する脱「ミニ東大」の経営戦略を紐解き、地方大学が生き残るためのヒントを探ります。
脱「ミニ東大」とは何か
従来型大学モデルからの転換
日本の大学には長らく、東京大学を頂点としたピラミッド構造の中で「上を目指す」という暗黙の前提がありました。地方大学も全国から学生を集め、優秀な人材を都市部や海外に送り出すことが成功の指標とされてきました。大森学長はこの価値観を根本から覆しています。
大森学長は「いわゆる”いい大学”は全国から学生を集め、世界へ羽ばたかせる。うちは学生を地域からお預かりして地域にお返ししている」と語っています。これは従来の大学ランキングの物差しでは測れない、まったく新しい大学の存在意義を示すものです。
「飛び立たないグローバル人材」の育成
共愛学園前橋国際大学が掲げるのは「グローカル人材」の育成です。Global(国際的)とLocal(地域的)を掛け合わせた造語で、「飛び立たないグローバル人材」とも表現されます。国際的な視野と教養を持ちながらも、地域に根を張って活躍する人材を育てるという考え方です。
実際、同大学の学生の約9割は群馬県出身で、卒業生の約7〜8割が県内に就職しています。「世界に羽ばたかない」大学であっても、地域に不可欠な人材を輩出し続けることで、大学としての存在価値を確立しているのです。
地域密着型教育の具体的な取り組み
教室を飛び出す実践型カリキュラム
共愛学園前橋国際大学の教育改革で特筆すべきは、従来の大教室での一方向的な講義スタイルからの脱却です。アクティブラーニングを全面的に導入し、学生が地域の現場に出て実践的に学ぶプログラムを多数展開しています。
代表的なプログラムとして、4か月間の「長期インターンシップ」があります。一般的な大学のインターンシップが数日〜2週間程度であるのに対し、約4か月にわたって地元企業や自治体で実務に携わります。学生は机上の知識だけでなく、実社会で求められるスキルやコミュニケーション能力を身につけることができます。
地域課題に向き合うプロジェクト群
限界集落での地域住民との交流活動「共愛COCO」では、学生が過疎化が進む地域に入り込み、住民とともに地域の課題に取り組みます。農業体験プログラム「共愛ファーム」では、群馬県の農業の現場を体験しながら食や環境について学びます。
さらに「インバウンド人材育成RPG」と呼ばれるプログラムでは、外国人観光客向けの地域観光プランの立案に取り組みます。国際的な視点を持ちつつ地域資源を活かす、まさにグローカル人材の育成に直結するプログラムです。
こうした取り組みは自治体・学校・企業・NPOとの協働で実施されており、大学単独ではなく地域全体で人材を育てる「地学一体」の教育体制が構築されています。
2026年の新たな挑戦 デジタル共創学部の新設
初の理系学部で新領域に進出
共愛学園前橋国際大学は2026年度、開学以来初の理系学部となる「デジタル共創学部」を新設しました。入学定員100名のこの学部は、デジタル技術を活用して社会課題を解決できる人材の育成を目指しています。
カリキュラムはDXを軸に「ICT」「マネジメント」「食・健康・暮らし」の3モジュールで構成されています。数理・ICT・データサイエンス・AIなどの科目によってデジタルスキルの基礎を固めつつ、地域社会の具体的な課題と結びつけて学ぶ点が特徴です。
地方×デジタルの可能性
新学部の設置は、地方大学が理系教育やデジタル人材の育成にも貢献できることを示す試みです。DX推進が叫ばれる中、地方企業でもデジタル人材の不足は深刻な課題となっています。地域に根差したデジタル人材を送り出すことで、地域経済のデジタル化を加速させる狙いがあります。
従来の国際社会学部に加えてデジタル共創学部を設置することで、文理融合型の教育を実現し、大学としての幅と深みを広げることにもつながります。
地方大学の構造課題と地域貢献評価軸
地方大学が直面する構造的な課題
共愛学園前橋国際大学の成功事例は注目に値しますが、すべての地方大学が同じモデルを適用できるわけではありません。群馬県は首都圏に近い立地優位性があり、一定の人口規模を有しています。より過疎化が進む地域では、そもそもの入学者数の確保が困難な場合もあります。
また、2025年度には私立大学の定員割れ率が53.2%に達しており、収容定員充足率が70%未満の大学も96校(16.2%)にのぼります。文部科学省は2026年度に「地域構想推進プラットフォーム」の構築支援事業を開始するなど、政策的な支援も進んでいますが、少子化の進行は今後も加速する見通しです。
「地域のための大学」という新しい評価軸
大森学長の取り組みが全国の学長から高い評価を受けている背景には、大学の評価軸そのものを変えようという時代の潮流があります。偏差値や研究論文数だけでなく、地域にどれだけ貢献しているかという視点が重要になりつつあります。
「教職一体」のガバナンス改革も大森学長の特徴です。教員と職員が一体となって大学運営にあたる体制を整えることで、意思決定のスピードと現場の実行力を両立させています。小規模大学ならではの機動力を活かした改革は、大規模大学には真似しにくい強みです。
学生9割地域出身とDX人材育成の道筋
共愛学園前橋国際大学の事例は、地方大学が生き残るための一つの明確な道筋を示しています。「ミニ東大」を目指すのではなく、地域に根差した独自の価値を創造するという戦略です。
学生の9割を地域から受け入れ、地域で活躍する人材として送り出す。アクティブラーニングや長期インターンシップで実践力を磨き、2026年度にはデジタル共創学部を新設してDX人材の育成にも乗り出しました。少子化が進む日本において、大学の存在意義そのものが問い直される今、「地域のための大学」という大森学長のビジョンは、多くの教育関係者に新たな視座を提供しています。
参考資料:
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