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サンデンPFASフリー対応、欧州規制で車部品調達改革前倒しへ

by 田中 健司
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欧州PFAS規制が車載空調を直撃する背景

欧州で進むPFAS規制は、消費財だけでなく自動車部品メーカーの設計と調達を揺さぶっています。PFASは耐熱性、耐薬品性、低摩擦性などに優れ、冷媒、樹脂、シール材、被覆材、工程用助剤などに広く入り込んできた物質群です。一方で環境中で分解されにくく、水や土壌に拡散した後の回収が難しいため、欧州連合は「社会に不可欠な用途」を除いて段階的に減らす方針を掲げています。

車載空調と熱マネジメントを主力とするサンデンにとって、この規制は単なる環境対応ではありません。欧州自動車メーカーが部品表の化学物質情報を細かく求めるほど、PFASを含まない設計、根拠を示せる材料データ、取引先を動かす調達統制が受注力を左右します。本稿では、PFASフリー対応がサンデンの技術競争とサプライチェーン改革をどう変えるのかを読み解きます。

サンデンの熱マネジメント事業に迫る転換点

車載空調から統合熱管理への事業軸

サンデンは自動車用エアコンのコンプレッサーや空調システムを中核に、HVACユニット、熱交換器、電気式クーラントヒーター、配管などを手掛けています。同社は自社サイトで、22カ国46拠点を持つグローバル企業であり、自動車用エアコン向けコンプレッサーで世界トップシェアを持つとうたっています。取引先は乗用車メーカーだけでなく、建設機械や農業機械にも広がります。

この事業領域は、電気自動車への移行で重要度を増しています。エンジン車は排熱を暖房に使えますが、EVは暖房時に駆動用バッテリーの電力を消費しやすく、航続距離が落ちます。そのため、車室、バッテリー、モーター、インバーターを一体で温度管理する統合熱マネジメントが、快適性だけでなく燃費・電費を左右する部品群になっています。

サンデンが開発するITMSは、パワートレインの排熱を回収し、ヒートポンプ技術と組み合わせて熱を有効利用する構想です。同社の説明では、ITMSはバッテリーやモーターなどの主要部品と車室空調を集中管理し、過度な消費電力を抑えることで航続距離の損失を小さくします。PFAS規制への対応は、この熱マネジメント領域の設計思想そのものに入り始めています。

プロパン冷媒ITMSの戦略的意味

象徴的なのが、同社がITMS 3.0で採用を説明しているプロパン冷媒です。サンデンは、PFAS環境規制に対応するためプロパンを冷媒に使い、間接方式によって冷媒が車室へ直接入らないようにし、冷媒使用量を抑えるとしています。これは、低GWP冷媒への移行だけでなく、フッ素系冷媒から生じるPFAS論点を見据えた設計変更です。

欧州では2024年に新しいFガス規則が採択され、同年3月から適用が始まりました。欧州委員会は、HFCを2050年までにEU域内で段階的に廃止する方針を掲げています。Fガス規則は温暖化対策が主眼ですが、近年は一部のフッ素系冷媒が大気中で分解してトリフルオロ酢酸に変わる問題も注目されています。つまり、冷媒選定は温暖化係数だけでなく、PFAS汚染の発生源管理としても評価され始めています。

ただし、プロパンなどの自然冷媒は扱いやすい万能解ではありません。可燃性への対策、漏えい時の安全設計、衝突時のリスク評価、熱交換効率、量産コストを同時に満たす必要があります。サンデンが間接方式や冷媒量削減を前面に出すのは、規制対応と自動車品質を両立するためです。PFASフリー化は材料置換の話に見えますが、実際には製品アーキテクチャの作り替えに近い課題です。

欧州自動車メーカーは、環境規制を先取りするサプライヤーを評価しやすくなります。車両全体でPFASの含有を説明できるか、将来の規制強化で部品を作り直さずに済むかは、採用時のリスク評価に直結します。サンデンにとってPFASフリー技術は、環境部門だけの宿題ではなく、EV向け熱マネジメント事業を欧州で広げるための営業武器になります。

PFASフリー調達を支えるサプライヤー管理

材料データの粒度を上げるIMDS運用

自動車部品のPFAS対策で最も難しいのは、完成品メーカーだけでは部材の実態を把握できない点です。コンプレッサーやHVACユニットには、金属、樹脂、ゴム、潤滑材、電子部品、塗装、接着剤が組み込まれます。PFASは主要材料として明記されているとは限らず、表面処理、離型剤、加工助剤、微量添加剤として残る場合もあります。

ここで重要になるのが、自動車業界の材料データ基盤であるIMDSです。IMDSは、Audi、BMW、Daimler、Ford、Porsche、VW、Volvoなどの共同開発から始まった自動車業界の材料データシステムで、現在はほぼ全てのグローバルOEMが使う標準とされています。自動車製造に使う材料を収集、維持、分析、保管し、法規制や国際標準に基づく義務を自動車メーカーとサプライヤーが満たすための基盤です。

PFAS対応では、IMDSに登録された材料名だけを眺めても十分ではありません。部品メーカーは、どの部位にフッ素系樹脂やフッ素系添加剤が使われ得るのかを設計部門が洗い出し、調達部門がサプライヤーへ確認し、品質部門が変更時の再評価を行う必要があります。材料証明、非含有保証、試験データ、工程変更通知を同じ部品番号の履歴にひも付けることが、欧州顧客への説明力になります。

中小サプライヤーを巻き込む実査

取引先を総動員する難しさは、サプライチェーンの深さにあります。一次サプライヤーがPFASを使っていなくても、二次、三次の材料メーカーが工程中で使っている可能性があります。特にゴム部品、樹脂成形、ワイヤハーネス、シール材、潤滑材は、耐熱性や耐薬品性を高める目的でフッ素化合物に依存してきた領域です。

そのため、サンデンのような部品メーカーが取るべき実務は、調査票の配布だけでは足りません。対象部品をリスク別に分類し、重要部材はサプライヤーへの聞き取り、材料メーカーまでの遡及、全有機フッ素などのスクリーニング分析、代替材の耐久試験を組み合わせる必要があります。PFASは1万種類超に及ぶとされるため、物質名を一つずつ追う手法だけでは抜けが出やすいからです。

この管理はコストを押し上げますが、欧州向けビジネスでは参入条件にもなります。OEMは自社の規制違反リスクを避けるため、サプライヤーにより細かい根拠を求めます。含有状況を短期間で回答できる企業、代替可否を部品単位で説明できる企業、規制が確定する前に移行計画を示せる企業は、価格以外の競争力を持てます。PFASフリー調達は、購買部門の事務作業ではなく、顧客信頼を作る品質保証の一部です。

逆に、ここで対応が遅れると、量産立ち上げ後に材料変更を迫られるリスクがあります。自動車部品は一度採用されると、耐久性、振動、熱、漏れ、電磁適合性など多くの試験を経て量産に入ります。後から材料を変えると、金型、工程条件、認証、在庫を巻き込む再設計になりやすいです。早い段階でPFASの所在を押さえることが、結果的に開発費と納期リスクを抑えます。

代替技術の商機と残る認証コスト

欧州規制の遅れが生む準備期間

欧州のPFAS包括規制は、2023年にドイツ、オランダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンが欧州化学品庁に提案した枠組みが出発点です。その後の公開協議では5,600件超の意見が寄せられ、欧州化学品庁と提案国は膨大なコメント処理に追われました。報道によれば、2025年に示された見直しでは適用除外や「リスク管理が可能な場合の継続使用」も検討対象に入り、産業界と環境団体の対立が続いています。

この遅れは、企業にとっては猶予でもあります。規制の最終形が見えないから何もしないのではなく、今のうちに含有部材の棚卸し、代替材の候補選定、顧客への説明資料、サプライヤー契約の見直しを進めた企業が優位に立ちます。欧州委員会の化学物質戦略は、PFASについて「社会に不可欠であると証明された用途」を除き段階的に廃止する考え方を明確にしています。規制がどの程度緩和されても、長期の方向は非PFAS化です。

PFAS汚染の経済負担も、規制を後押ししています。欧州委員会が公表した研究を扱った報道では、欧州経済領域のPFAS汚染コストは2050年までに3,300億ユーロから1.7兆ユーロに達する可能性が示されました。別の研究では、欧州で大規模な除染技術を導入しても、年間排出量の2%未満しか環境中から取り除けないとされています。汚してから回収するより、源流で止める方が合理的だという論理です。

過剰適合と供給途絶の両面リスク

一方で、PFASフリー化を急ぐほど技術リスクも増えます。フッ素系材料は、耐熱、耐油、耐候、低摩擦、電気絶縁といった複数の性能を同時に満たすために使われてきました。代替材に置き換えると、摩耗、漏れ、膨潤、低温性能、耐薬品性のどこかに弱点が出る可能性があります。車載空調では冷媒や潤滑油との相性も重要です。

自動車メーカーは、環境対応だけでなく車両保証と安全性を見ます。PFASを避けるために部品寿命が短くなれば、リコールや保証費のリスクが高まります。逆に、従来材料を使い続ければ欧州の入札で不利になります。この二つの圧力の間で、サンデンは部品ごとに「すぐ置き換える部材」「用途を限定して使う部材」「顧客と例外扱いを協議する部材」を分ける必要があります。

商機は、ここにあります。単に「PFAS不使用」とうたうだけではなく、熱効率、耐久性、安全性、量産性をそろえた代替設計を示せる部品メーカーは限られます。サンデンがプロパン冷媒の間接方式や冷媒量削減を打ち出すのは、規制対応を製品価値に変える戦略です。顧客にとっては、規制の不確実性を肩代わりしてくれるサプライヤーほど使いやすくなります。

ただし、認証コストの回収は簡単ではありません。代替材の評価、サプライヤー監査、試験設備、分析費、設計変更は、短期的には利益率を圧迫します。顧客が環境対応のコストを価格に反映しなければ、先行投資はサプライヤー側に偏ります。PFASフリー対応を商機に変えるには、技術開発だけでなく、顧客との価格交渉、長期契約、変更承認のスピードアップが欠かせません。

部品メーカーが今備えるべき三つの実務

PFAS規制は、決定文が出てから対応するテーマではありません。自動車部品は開発から量産まで時間がかかり、材料変更の影響が広いからです。サンデンの動きから見える第一の実務は、部品表と工程表を使ってPFASリスクを可視化することです。冷媒、樹脂、ゴム、表面処理、潤滑材、電子部品を同じ優先順位で扱うのではなく、規制可能性と代替難度で分類する必要があります。

第二は、代替技術と調達証明を同時に進めることです。プロパン冷媒のような設計変更は目立ちますが、顧客が求めるのは製品全体の根拠です。IMDSの材料データ、サプライヤーの非含有保証、分析結果、変更管理を束ね、欧州OEMへ説明できる状態を作ることが競争力になります。

第三は、規制対応コストを経営課題として扱うことです。PFASフリー化は環境部門だけの活動ではなく、設計、購買、品質、営業、法務を横断する事業再編です。先行企業は、規制を守るだけでなく、顧客の不確実性を減らす提案で受注を取りに行けます。サンデンのPFAS対応は、欧州規制をきっかけに日本の部品メーカーが調達力と技術力を再定義する試金石です。

参考資料:

田中 健司

製造業・建設・インフラ

製造業・建設・インフラ産業を中心に取材。大企業の事業再編から建設現場の人手不足問題まで、日本の産業基盤の変化を追い続ける。

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